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労働条件の明示ルールとは? 明示すべき項目と法改正を説明

KiteLab 編集部
2023.12.12

はじめに

労働基準法(以下「労基法」という。)では、使用者から労働者に対して、賃金、労働時間などの労働条件を明示することが義務付けられています(労基法15条)。これは、労働者の予想に反して悪い労働条件での労働をさせ、または、そのような職場にとどまらざるを得なくなるような弊害を防止する目的があります。

つまり、労働者を雇うときには、労働条件を決め、あらかじめ知らせておかなければいけないルールがあります。この記事では、「労働条件の明示ルール」について、2024年4月の改正点も含めて解説します。

労働条件の明示ルール

明示すべき時期

明示すべき時期は、労働契約締結の際とされています。労働契約の締結は、労働者が「ここで働きます」、使用者が「あなたを雇って賃金を支払います」とお互いが合意した時に成立しますので(労働契約法6条)、この合意の時に労働条件の明示が必要となります。

また、有期労働契約の場合は、契約を更新する際にも更新後の労働条件を明示しなければなりません。

明示すべき労働条件の範囲

労働条件の明示事項には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と定めがある場合に明示しなければならい「相対的明示事項」があり、次の図のように整理することができます(労基法施行規則5条)。

絶対的明示事項(必ず明示するもの)相対的明示事項(定めがある場合に明示するもの)
① 労働契約の期間に関する事項⑦ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
② 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項⑧ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項
③ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項⑨ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
④ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項⑩ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項⑪ 職業訓練に関する事項
⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)⑫ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑬ 表彰及び制裁に関する事項
⑭ 休職に関する事項

絶対的明示事項の①~⑥の詳細は、次の通りです(平成11.1.29基発45号、②については平成24.10.26基発45号)。

①労働契約の期間に関する事項」は、期間の定めのある契約の場合はその期間、期間の定めのない場合はその旨を明示します。

②有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」は、期間の定めのある契約を更新する場合の判断基準として、労働者が一定程度予見することが可能となるもので、例えば、次のような内容等を明示することが考えられます。

  • 契約期間満了時の業務量により判断する
  • 労働者の勤務成績、態度により判断する
  • 労働者の能力により判断する
  • 従事している業務の進捗状況により判断する

③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」は、雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務を明示します。将来の就業場所と従事すべき業務をあわせて網羅的に明示しても差し支えありません。

④は、その労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示します。ただし、明示すべき事項の内容が膨大になる場合は、労働者の利便性も考慮して、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項は、勤務の種類ごとの始業・終業時刻、休日等に関する考え方を示したうえで、その労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足ります。

⑤は、雇入れ時の賃金に関する事項を明示します。具体的には、基本給の額、手当の額とその支給基準、時間外・休日深夜労働の割増賃金に特別な割増率を定めていればその率、賃金の締切日、支払日です。

⑥は、退職事由・手続き、解雇事由等が該当します。

なお、②と③については、改正によって2024年4月から対応が変更になる箇所があります。詳細は後ほど解説します。

書面(労働条件通知書)による明示

①~⑥(⑤の昇給に関する事項を除く)の労働条件については、書面による明示が義務付けられています(労基法施行規則5条3項)。これは、口頭での約束では後でトラブルになることが多いので、基本的な労働条件について書面化を要求することを目的としています。

この書面を一般的に「労働条件通知書」と呼びます。労働条件通知書については、労働者の退職又は死亡日を起算として、5年間(当分の間は3年間)の保存が必要です(労基法109条、同法附則143条1項、同法施行規則56条)。

なお、労働者に適用する部分を明確にして就業規則を交付するとともに(平成11.1.29基発45号)、就業規則に記載のない事項については、別に書面を交付しても差し支えありません。

ここでいう「書面」には、労働者が希望した場合に限り、ファクシミリの送信、電子メール等の送信(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)が含まれます(労基法施行規則5条4項)。詳しくは「労働条件通知書に記載すべき項目は?電子メールによる「送信」の考え方も解説」もご確認ください。

パートタイマー、有期雇用労働者における追加明示事項

追加明示事項(特定事項)

正社員より勤務時間の短いパートタイマーと契約期間に定めのある有期雇用労働者については、パートタイム・有期雇用労働法により、次のアからエの事項も書面等により明示する必要があります(パートタイム・有期雇用労働法6条)。なお、④の相談窓口は、雇用管理に関する事項について、質問や相談を受け付ける窓口のことを指し、組織であるか、個人であるかを問いません。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

2024年4月労働条件明示ルールの一部変更(労働基準法施行規則5条の改正)

新しく追加される明示事項

2024年4月以降の労働契約締結の場合、今までの明示事項に加えて、次の3つ事項を明示する必要があります。明示のタイミングと追加される明示事項は次の通りです。

明示のタイミング追加される明示事項
全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時A 就業場所、業務の変更の範囲
有期労働契約の締結時と更新時B 通算契約期間又は更新回数の上限の有無とその内容
無期転換申込機会が発生する契約の更新時C 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件

 また、新しく追加される明示事項を含んだ労働条件通知書のイメージは、以下の通りです。

(引用:モデル労働条件通知書 厚生労働省

追加される明示事項の内容

「就業場所、業務の変更の範囲」は、絶対的明示事項の③の追加事項です。今までは雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務を明示すれば足りましたが、これに加えて将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲も明示します。テレワークを行うことが想定される場合には、テレワークを行う場所も就業場所の範囲に含まれます。

「通算契約期間又は更新回数の上限の有無とその内容」は、絶対的明示事項の②の追加事項です。有期労働契約の締結時と契約更新の際に通算契約期間又は更新回数の上限の有無とその内容を明示します。なお、以下の場合には更新上限を新たに設ける理由又は短縮する理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前に)説明するする必要があります。

  • 最初の契約締結より後に、更新上限を新たに設ける場合
  • 最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合

「無期転換申込機会と無期転換後の労働条件」は、無期転換ルールにおける明示事項です。無期転換ルールとは、同一の使用者との間で、有期労働契約の期間が通算5年を超えるときは、労働者の申込みによって期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換する制度です。この制度の内容を十分に知らない有期雇用労働者に向けて、申し込み機会を確保することを目的とした新しい明示事項となっています。

改正後は、無期転換権が発生するタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を明示します。

例えば、以下の図の「契約期間が1年の場合」のように1年の契約を繰り返す場合は、6年目の契約を締結する際に、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を明示することが必要です。なお、6年目の契約締結以降に労働者から無期転換の申込みがない場合において、7年目の契約を締結するときは、この際にも無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を明示する必要があります。

図の「契約期間が3年の場合」については、2回目の契約で契約期間が5年を超えることになりますので、2回目の契約締結の際に無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を明示します。

(引用:有期契約労働者の無期転換ポータルサイト

(引用:有期契約労働者の無期転換ポータルサイト

労働条件の明示におけるよくある質問と注意点

以下は、よくある質問と注意点です。

明示された労働条件が事実と異なる場合

労働者は、即時に労働契約を解約する(退職する)ことができます(労基法15条2項)。さらに、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、使用者は必要な旅費を負担しなければいけません(同条3項)。

就業規則の必要的記載事項(労基法89条)との違い

労働条件の明示義務のある事項は、就業規則の必要的記載事項とほぼ重なります。異なるのは、絶対的明示事項の「①労働契約の期間に関する事項」、「②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」、「③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」です。

なお、労働者が10人未満の事業所では、就業規則の作成が任意となっていますが、労働条件の明示は必須です。

労働条件の明示がなかった場合

労働条件を明示しなかった場合でも、使用者と労働者の合意があれば、労働契約は成立すると考えられています。しかし、労働契約を明示しないことにより、労基法では使用者に対して、罰則(30万円以下の罰金)が定められていますし、労働者との民事上のトラブルの原因にもなりかねません。

雇用契約書

「雇用契約書」は労働(雇用)契約を締結したことを書類上で明らかにしたものですが、法律上は、労働者との間で締結する義務まではありません。もっとも、「労働契約の内容は、できる限り書面により確認するもの」(労働契約法4条2項)との努力義務が規定されていますし、お互いに記名・捺印をした雇用契約書を持っておくことで、トラブルを未然に防止し、安心感を持つことができます。また、雇用契約書に明示すべき労働条件を記載することで、書面(労働条件通知書)による明示(労基法施行規則5条3項)をしたことにもなります。

まとめ

2024年4月から使用者にとっては明示すべき事項が増え、労働条件通知書に記載する事項が多くなります。使用者には負担が増えることになりますが、改正の対象となる事項は、労使トラブルに発展するケースが多いものでした。

改正によって、労使が労働条件を確認し合う契機となり、紛争の未然防止効果も期待できると指摘されています。労働条件について労働者の理解を深めるようにすることで(労働契約法4条)、早期離職を防止し、人材の確保に繋がる可能性もありますので、その重要性を認識し、「労働条件の明示ルール」を遵守していきましょう。

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