「離職票」の発行を求められたら?離職票発行までの流れや注意点を社労士が解説!
社会保険労務士の西岡秀泰です。
今回は「離職票」について解説します。
失業保険の申請を急ぐ退職者から「早く離職票を発行してほしい」という申出を受けることもありますが、所定の手続きが必要であるためすぐには発行できません。
離職票発行までの流れや注意点、離職証明書の書き方など、人事労務担当者として押さえておきたいポイントを解説します。
離職票とは
離職票(正式名称は「雇用保険被保険者離職票」)とは、雇用保険に加入していた人が離職したことを証明する書類です。離職票は、勤務先を経由してハローワークから離職者に交付されます。
離職票の主な目的は、次の2つの手続きに使用することです。(※注1)
- 失業保険(雇用保険の基本手当)の申請
- 高年齢雇用継続基本給付金(※注1)の申請
※注1 育児休業給付の申請時に、転職後の会社で要件を満たせない場合に、前職の離職票が必要になる場合もあります。
※注2 60歳以降の賃金が60歳時点(59歳以降に退職した場合は退職時)に比べて75%未満になった場合、ハローワークから支給される給付金です。
(参考)https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/content/contents/001264514.pdf
原則、離職票は会社を退職した労働者からの「発行請求」があって初めて作成義務が会社に課されます。
例外として、59歳以上の労働者が退職した場合は、本人の請求意思に関わらず、資格喪失届と離職票を作成し管轄のハローワークへ届け出る必要がございます。
離職票の種類
離職票には次の2種類があり、2枚同時に交付されます。
- 雇用保険被保険者離職票-1(以後、離職票-1)
- 雇用保険被保険者離職票-2(以後、離職票-2)
離職票-1には、「離職者や離職に関する基本情報」と「失業保険の申請に関する項目」が記載されています。
基本情報とは、離職者の氏名や雇用保険被保険者番号、雇用保険の加入日と離職日、勤務先の事業所名などです。失業保険申請に関する項目には失業保険の申請日や失業保険の振込口座などがあり、離職者が受領後に書き込むように空欄です。
(参照)ハローワークインタネットサービス「雇用保険被保険者離職票-1」
離職票-2には、「離職前の賃金支払状況」や「離職理由」などが記載されています。
離職前の賃金や離職理由によって、次の失業保険の給付内容が決まります。
- 離職前の賃金:失業保険の1日あたりの支給金額(基本手当日額)
- 離職理由:失業保険の支給日数(所定給付日数)
(参照)ハローワークインタネットサービス「雇用保険被保険者離職票-2」
「離職証明書」「退職証明書」との違い
離職票と間違いやすい書類が、「離職証明書(正式名称は「雇用保険被保険者離職証明書」)」と「退職証明書」です。
離職証明書は、従業員が離職したときに勤務先がハローワークに提出する書類です。離職日の翌々日から10日以内に、離職証明書と「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しなければなりません。離職証明書の提出を受け、ハローワークが離職票を発行します。
離職票や離職証明書は公的な書類ですが、退職証明書は企業が任意で発行するものです。再就職先に提出したいなど、離職者の希望があれば発行しなければなりませんが、希望がなければ発行不要です。
離職票や離職証明書の発行時期・発行期限
離職証明書は、前述の通り離職日の翌々日から10日以内にハローワークに提出しなければなりません。一般的に「雇用保険の資格喪失日の翌日から10日以内」と記載されていますが、資格喪失日は離職日の翌日なので「離職日の翌々日から10日以内」と同義です。
離職票に期限は設けられていませんが、失業保険の申請に必要であるため可能な限り早く離職者に交付しましょう。失業保険の申請が遅れると支給開始時期も遅くなるため、離職者からクレームを受ける恐れもあります。離職票を早く交付する方法は次の2つです。
- 離職後すぐに離職証明書をハローワークに提出する
- ハローワークから離職票を受け取ったら、すぐに離職者に交付する
退職してから離職者に離職票が送付されるまでの期間は、およそ10日から2週間くらいと言われます。遅くても2週間以内には離職者に届けられるように手配しましょう。
離職票の発行までの流れ
離職票を離職者に発行するまでの流れは次の通りです。
- 離職者に離職票が必要かどうかを確認する
- 離職証明書をハローワークに提出する
- ハローワークから離職票が送付される
- 離職者に離職票を送付する
それぞれについて解説します。
【1】離職者に離職票が必要かどうかを確認する
離職者がすぐに再就職して失業保険を申請しない場合、離職票の交付は不要です。退職前に離職票が必要かどうかを確認しましょう。離職者が離職票を希望しない場合、離職票の交付だけでなく、ハローワークへの離職証明書の提出も必要ありません。
ただし、離職者が59歳以上の場合、本人の希望にかかわらず交付が必要です。
【2】離職証明書をハローワークに提出する
離職証明書を作成したら、離職日の翌々日から10日以内にハローワークに提出します。提出が遅れると離職票の発行も遅くなり、その結果、失業保険の給付が少なくなる可能性もあるので注意しましょう。
離職証明書を提出するときは、離職前の賃金支払状況や離職理由の証明資料を添付します。具体的には次が該当します。
- 離職前の賃金支払状況の証明:賃金台帳や労働者名簿、出金簿など
- 離職理由の証明:退職願や解雇通知書、就業規則、労働契約書など
【3】ハローワークから離職票が送付される
ハローワークに離職証明書を提出すると、ハローワークは離職理由などを確認して企業に離職証明書を送付します。離職証明書の提出後すぐに返送されるので、1週間過ぎても送付されない場合は、ハローワークに確認してみましょう。
【4】離職者に離職票を送付する
離職票が届いたら、郵送などで離職票-1と離職票-2を送付します。離職票の入手を急ぐ離職者が来社による受け取りを希望する場合もあるので、すぐに連絡してあげましょう。
離職票と同時に「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書」が送付されるので、間違って交付しないように注意が必要です。
離職票を発行するための離職証明書の記入方法
離職証明書の記入方法について解説します。記載事項は次の通りです。
- 雇用保険被保険者番号
- 雇用保険事業所番号
- 離職者の氏名(カタカナでふりがな)
- 離職年月日
- 事業所名と住所、電話番号、事業主氏名
- 離職者の住所と電話番号
- 離職理由
- 離職前の賃金支払状況
離職理由については、「離職理由欄」から該当する理由を選択して「事業主記入欄」にチェックします。「具体的事象記載欄(事業主用)」には、退職理由を「定年による退職」「自己都合による退職」「人員整理のための希望退職」などと記載します。
離職者も離職理由のチェックと記載が必要です。「離職者記入欄」をチェックし、「具体的事象記載欄(離職者用)」に退職理由を記載します。事業主の申告通りなら「同上」と記載してもらいましょう。事業主が選択した離職理由に対する異議の有無と署名も必要です。
離職前の賃金支払状況については、次の事項を記載します。
- 被保険者期間算定対象期間と賃金支払基礎日数
- 賃金支払対象期間と基礎日数、賃金
「被保険者期間算定対象期間」は、退職日から遡って1か月ずつ、12か月分(賃金支払基礎日数11日以上の月)を記入します。「賃金支払基礎日数」は賃金支払基礎となった日数で、完全月給制の場合は休日も含めた日数です。
「賃金支払対象期間」は、賃金の締め日までの1か月の期間ごとに過去に遡って(6か月間)記載します。また、各期間の賃金支払基礎となった日数や実際に支払った賃金も記載します。
(離職証明書の記入イメージ)
(出典)厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書(用紙左側部分)の記入例」
離職票を発行する場合の注意点
離職票を発行するときは、次の点に注意しましょう。
- 離職証明書の内容に関する労使間トラブル
- 離職票の発行時期
- 離職票の再発行
- 助成金の受給
それぞれの注意点について解説します。
離職証明書の内容に関する労使間トラブル
離職証明書の内容に関して離職者とのトラブルが多いのは、離職理由についてです。離職者からの主な苦情は次の通りです。
- 会社から辞めるように言われたのに、自己都合退職にされた
- 上司のパワハラが原因で離職したのに、自己都合退職にされた
- 有期契約の更新を希望したのに、更新希望がなかったことにされた
自己都合退職の場合、失業保険の所定給付日数が少なくなったり支給開始時期が遅れたりするため、離職理由に納得しない離職者が強く反発することもあります。トラブルを避けるために退職前に離職者の同意を得る、離職証明書に署名してもらう、などの対応が必要です。
離職票の発行時期
離職票の発行が遅れると、離職者からクレームを受けることがあります。離職票がないと失業保険の申請ができないため、失業保険の支給が遅れたり支給日数が少なくなったりするからです。
離職と同時に離職票の発行申出を受けることもありますが、発行手順を説明して、発行までに一定期間かかることを理解してもらいましょう。離職後速やかにハローワークに離職証明書を提出することは当然です。
離職票の再発行
離職者から離職票の再発行申出があれば、企業は申出に応じなければなりません。ハローワークに再交付を申請し、ハローワークから送付された離職票を離職者に再交付します。
ただし、離職者本人がハローワークで再交付申請した方が、離職票は早く入手できます。離職者から再発行申出を受けた場合、ハローワークでの手続きも案内してみましょう。
助成金の受給
雇用関係の助成金を受給中(または受給)を検討している場合、解雇など会社都合退職があると受給できなくなる場合もあるので注意しましょう。ただし、助成金を受けるために離職理由を改ざんしたら、離職者に不利益を与えるとともに助成金の不正受給になります。
社労士の西岡秀泰がお答えします。離職票発行のQ&A5選
離職票に関してよくある質問について、Q&A形式でお答えします。
Q1 失業保険を受給できない離職者にも交付が必要?
A.失業保険の支給要件にかかわらず交付が必要です。
雇用保険の加入期間が失業保険の支給要件を満たしていない場合でも、離職者が希望すれば離職票を交付しなければなりません。雇用保険法第76条で定められた企業の義務です。
Q2 賃金支払基礎日数11日未満の月がある場合、離職証明書の記入は?
A.基礎日数11日以上の月が12か月以上となるよう記載します。
失業保険の支給を受けるには、原則離職前の2年間に被保険者期間が12か月以上必要です。被保険者期間とは、賃金支払基礎日数が11日以上の月です。11日未満の月がある場合、被保険者期間が12か月以上になるように遡って記載します。
Q3 パートタイムの人にも離職票を交付しないといけない?
A.雇用保険に加入していた場合は交付が必要です。
パートタイム労働者が雇用保険に加入していた場合、本人が希望すれば離職票の交付が必要です。パートタイム労働者も雇用保険加入など一定要件を満たせば失業保険を受給できます。申請には離職票が必要になるため、希望があれば離職票を交付しなければなりません。
Q4 退職理由で労使の意見が合わないときはどうする?
A.離職者に離職理由に異議があることを記載してもらう
事業主が選択した離職理由については、退職前に離職者に説明し理解を求めるのが原則ですが、最終的に意見が合わないこともあるでしょう。この場合、離職証明書の「事業主が選択した離職理由に異議の有無を確認する欄」に「異議あり」と記載してもらい、ハローワークに提出します。
ハローワークが離職理由を確認します。
Q5 離職票を発行しなかったらどうなりますか?
A.雇用保険法違反で罰則が科されます。
離職者の希望による離職票の発行は、企業に課された法律上の義務です。離職者から交付申出があったにもかかわらず発行しない場合、雇用保険法違反で事業主には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。