TOP労務コラム労働条件明示のルール変更について【2024年重要トピック】

労働条件明示のルール変更について【2024年重要トピック】

伊藤 嵩人
2024.04.22

社会保険労務士の伊藤嵩人(株式会社KiteRa)です。

今回は、2024年4月1日から施行された「労働条件の明示事項」に関する改正内容についてもう一度確認すべく本記事を執筆いたしました。

「労働基準法施行規則」、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正に伴い、2024年4月1日より労働条件の明示事項等が変更されました。改正内容が影響する企業は、労働者を1人でも雇い入れている会社、全てになります。また、明示を行わなかった場合は「30万円以下の罰金(労働基準法120条1号)」の対象になるため、内容を理解し対応する必要があります。

改正の概要

まずは、労働条件の明示ルールの概要について簡単に解説します。

雇用契約の締結時、会社は労働者に対して賃金・労働事案その他の労働条件を明示しなければならないと定められています。

(労働条件の明示)
労働基準法第十五条 
1 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

また、労働基準法第15条で定められている内容のうち、労働契約の期間(期間の定めのある労働契約を更新する場合はその基準)、就業場所、従事すべき業務、労働時間、賃金、退職(解雇の事由を含む)に関する内容については口頭だけではなく、「書面」の交付によって明示する必要があります。

労働基準法施行規則第5条
1 使用者が労働基準法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
 (1) 労働契約の期間に関する事項
 (1)の2 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間(労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)
 (1)の3 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
 (2) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
 (3) 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 (4) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
 (4)の2 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
 (5) 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
 (6) 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
 (7) 安全及び衛生に関する事項
 (8) 職業訓練に関する事項
 (9) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
 (10) 表彰及び制裁に関する事項
 (11) 休職に関する事項

2 使用者は、法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。

3 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

4 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
(1) ファクシミリを利用してする送信の方法
(2) 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

5 その契約期間内に労働者が労働契約法第18条第1項の適用を受ける期間の定めのない労働契約の締結の申込み(以下「労働契約法第18条第1項の無期転換申込み」という。)をすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、第1項に規定するもののほか、労働契約法第18条第1項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち第1項第1号及び第1号の3から第11号までに掲げる事項とする。ただし、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち同項第4号の2から第11号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

6 その契約期間内に労働者が労働契約法第18条第1項の無期転換申込みをすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、第3項に規定するもののほか、労働契約法第18条第1項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち第1項第1号及び第1号の3から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

(出典)厚生労働省 労働基準法の基礎知識

厚生労働省の資料にもあるとおり、必ず明示しなければならない事項や書面で交付しなければならない事項について、細かく法律に定められています。前述した通り、この定めに違反した場合は罰則が課せられる可能性もあることから、労務管理上、外すことが出来ない重要なルールとなっております。

また、明示された労働条件と実際の労働条件が相反する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができ、解除にともない帰郷するような場合にはその旅費を負担しなければならないという定めもあるため、現実の運用に則した内容を明示する必要があります。

なお、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」の明示が必要になったことや、労働者が希望した場合は労働条件をFAXやEメールなどで明示できるようになるなど、定期的に改正が入るルールでもあります。改正によりルールが複雑になっていますので、基本的な事を含めて、今回の改正について理解を深めて頂ければと思います。

労働条件の明示に今回、下記内容を新たに明記するよう改正が行われました。

(出典) 厚生労働省 2024年4月からの労働条件明示のルール変更備えは大丈夫ですか?

改正の背景

本改正の経緯確認のために、厚生労働省に設置された労働施策審議会の労働条件分科会ではどの様な議論がなされていたのかを確認していきましょう。

今回の改正で重要なキーワードとしては、「多様な正社員」が挙げられます。

労働施策審議会の労働条件分科会では、以下の意見が挙がっておりました。

(出典)厚生労働省 労働条件分科会(第 181 回) 多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書

 多様な正社員の働き方を推進する一方で、現状の問題点も併せて触れられております。

(出典)厚生労働省 労働条件分科会(第 181 回) 多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書

この審議会資料からも分かるとおり、従来どおりの「転勤あり」、「フルタイム勤務」を前提とした正社員という形態だけではなく、「勤務地」、「勤務時間」や「職務の内容」について一定程度の制限を設けて働く、「就労条件を一部分限定した正社員」という働き方を選択する労働者がいることが分かります。

しかし、従来の統一的・集合的な労働条件決定のしくみでは、勤務地限定等の個別的な労働契約内容が曖昧になりやすい問題がありました。使用者と労働者との間での予見可能性の向上や労使紛争の未然防止の観点のほか、多様な働き方の実現に向けた多様な正社員の更なる普及・促進の観点から、労働契約関係の明確化が求められているのです。

参考 多様な正社員(限定正社員)の一例

(出典)厚生労働省 多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説

改正の詳細と注意点

ここからは2024年(令和6年)4月以降に適用された労働条件明示ルールの変更点について説明していきます。今回の変更については、全ての労働者が対象になるものと、一部の労働者が対象になるものがありますので、その内容について3Stepに分けて説明していきます。

Step1 すべての労働者に該当する事項

従来、労働基準法施行規則5条第1項1号の3にて「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」の明示が義務付けられていましたが、それについて「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。」という内容に改正されました。

本改正は正社員だけでなく、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者を含む全ての労働者が対象です。雇い入れ直後の「勤務場所、業務内容」に加え、将来変更の可能性があるのであれば、その変更後の「勤務場所」や「業務内容」を明記する必要がございます。

厚労省では、「就業場所と業務」、「変更の範囲」について下記の通り注意すべきポイントについて言及しております。

「就業場所と業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所と、労働者が通常従事することが想定されている業務のことを指します。 配置転換や在籍型出向が命じられた際の配置転換先や在籍型出向先の場所や業務は含まれ ますが、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、就業の場所や従事すべき業務が一 時的に変更される際の、一時的な変更先の場所や業務は含まれません。 

「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲のことをいいます。 労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務、いわゆるテレワークを雇入れ直後から行うことが通常想定されている場合は、「雇入れ直後」の就業場所として、また、その労働契約期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は、「変更の範囲」として明示してください。具体的には、労働者の自宅やサテライトオフィスなど、テレワークが 可能な場所を明示するようにしましょう。と注意喚起がなされております。

「就業場所・業務の変更の範囲」についてKiteRaでご用意させていただいております、労働条件通知書にて「就業場所と業務」と「変更の範囲」について記載した例を添付させていただきました。労働条件明示を行う際のご参考にしていただけますと幸いでございます。

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実務上で注意すべき点を幾つか挙げさせていただきました。運用の見直しや改善にお役立ていただければと存じます。

労働条件通知書に記載する、「変更の範囲」は、締結した労働契約の期間で変更が見込まれる場合に記載が必要になります。そのため、有期雇用契約を繰り返し締結している場合は、その有期雇用契約期間内で「就業の場所」と「業務」に変更が生じる可能性がある場合は「変更の範囲」を記載する必要がございます。

また、既に雇い入れられている従業員に対して、改正内容に対応した労働条件通知書を通知する必要はございません。本改正内容を反映した通知書は「令和6年4月1日」以降に労働契約を締結する場合に適用される事にご留意いただければと存じます。

日雇い労働者を雇い入れている会社様につきましては、「変更の範囲」を明示する際は、その日の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば問題はございません。

Step2 有期契約労働者に該当する事項①

本改正の対象者となる労働者は、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者になります。

更新条件の有無については、労働契約の締結時と、契約を更新した際には更新のタイミングごとに、更新上限がある場合には、その明示が必要になります。

(出典)厚生労働省 2024年4月からの労働条件明示のルール変更備えは大丈夫ですか?

また、既に雇われている有期契約労働者に更新上限を新設・短縮しようとする場合には、あらかじめ更新上限を設定・短縮する理由を労働者に説明することが必要になる事にも注意しなければなりません。

更新上限の短縮については、「通算契約期間を4年から2年に短縮」「契約更新回数の上限を3回から1回に短縮」する事などが該当します。

実務上で注意すべき点を幾つか挙げさせていただきました。運用の見直しや改善にお役立ていただければと存じます。

有期労働契約の更新回数の上限を明示する際は、記載されている数字が何を意味しているのか労使双方に共通認識がある事が重要だと考えます。実際に労働条件通知書に記載する際は、契約更新回数の上限を記載した上で、現在何回目の更新なのか等の記載を行うことにより、労使間でのトラブルを未然に防ぐ様な運用を心がける事が重要です。

また、更新上限を設定・短縮する理由を労働者に説明する際は労使間のトラブルや紛争の発生を防止するためにも、「書面」等を公布した上で個別具体的に説明を行う方法が考えられます。更新上限を撤廃する場合や延長する場合はその理由を従業員に説明する義務はございませんが、労働条件の明確化や労働者側のインセンティブを担保するためにも適切な説明機会を設ける運用としてみてはいかがでしょうか。

Step3 有期契約労働者に該当する事項②

「無期転換申込機会の書面明示」、「無期転換後の労働条件の書面明示」の対象となる労働者は、無期転換申込権が発生する有期契約労働者になります。 

無期転換申込機会の明示事項については、有期契約を更新し無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換申込権が発生した有期労働契約の期間の初日から満了する日までの間に「無期転換を申し込む事ができること」を「書面」により明示しなければなりません。事業主には「有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項」に関して、雇用している有期労働契約者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません。

(参考) 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

本件、無期転換の申込権については「有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項」に該当するため、事業主にはその債務が課されている事に留意する必要がございますのでご注意ください。

次に、無期転換後の労働条件の書面明示を行うタイミングについて確認していきます。明示しなければならないタイミングは下記2つになります。

①「無期転換申込権が生じる契約更新時」
②「無期転換申込権の行使による無期労働契約の成立時」

注意が必要な点と致しましては、①、②それぞれのタイミングで、「労働条件の明示」が必要なことです。

ただし、下記条件を満たした場合は、「無期転換申込権の行使による無期労働契約の成立時」に提示する明示事項については、「すべての事項が無期転換申込権が生じた際に明示した条件と同じである」ことを書面で明示する事が可能になります。

条件①「無期転換申込権が生じる契約更新時」の段階で、労働基準法施行規則第5条第5項の規定により明示すべき 労働条件を事項ごとにその内容を示す方法で行っていること。
条件②「無期転換申込権が生じる契約更新時」で成立する無期労働契約の労働条件のうち、労働基準法施行規則第1項の規定に基づき明示すべき事項がすべて同じであること。

実務上で注意すべき点を幾つか挙げさせていただきました。運用の見直しや改善にお役立ていただければと存じます。

有期労働契約を繰り返し更新し、「無期転換を申し込む」ことが出来る要件を満たした従業員があらかじめ、「無期転換を行わない」旨を主張していた場合であっても「無期転換の申込み機会の明示」は行う必要がある事は実留意すべきポイトになります。また、労働契約法第3条2項にて、「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、 均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」と定められていることより、無期転換後に職務内容や責任等に変更が生じた場合は他の労働者との待遇の均衡が図られた労働条件に変更することを検討することも必要になります。検討した内容について該当する従業員に対して説明を行う事も、従業員の理解を深める事や無期転換後のトラブル防止に繋がる手段になります。

重要キーワード「多様な正社員」について

冒頭の改正背景でご紹介させて頂きました、「多様な正社員」について厚労省では「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」というパンフレットが出ており、今回の改正事項でもある「労働条件の明示」についても触れられているだけでなく、「就業規則の変更」についても言及されている箇所がございます。

多様な正社員に関連する裁判例を取り上げた厚労省 多様な正社員の雇用ルール等に関する主な裁判例ないで紹介されている「新日本通信事件(大阪地判平成 9 年 3 月 24 日労判 715 号 42 頁) 」では、以下の様に述べられております。

勤務地限定の合意があったか否かの判断について、

「電気通信事業等を営む会社の従業員に対する仙台から大阪への配転命令の有効性等が問題となった事案において、採用面接において、採用担当者であった Z に対し、家庭の事情で仙台以外には転勤できない旨明確に述べ、Z もその際勤務地を仙台に限定することを否定しなかったこと、Z は、本社に採用の稟議を上げる際、X が転勤を拒否していることを伝えたのに対し、本社からは何らの留保を付することなく採用許可の通知が来たこと、 その後 Y は X を何らの留保を付することなく採用し、X がこれに応じたことがそれぞれ認められ、これに対し、Y が転勤があり得ることを X に明示した形跡もない以上、X が Yに応募するに当たって転勤ができない旨の条件を付し、Y が右条件を承認したものと認められるから、X、Y 間の雇用契約においては、勤務地を仙台に限定する旨の合意が存在したと認めるのが相当であるとされた事例。」

(出典) 厚労省 多様な正社員の雇用ルール等に関する主な裁判例 

本裁判例では、勤務地の限定について使用者側がきちんと「多様な正社員」に対応した労働条件の明示を行っておけば防げたかもしれない事件であったと考えられます。

また、労働条件の明示だけでなく、多様な正社員についての就業規則に「雇用区分」や「限定される内容」等を規定していれば、労使双方の紛争予防に繋がっていたかもしれません。

本改正を期に、多様な正社員について定めた就業規則の見直しを行ってみてはいかがでしょうか?

以下、多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説で言及されている就業規則の見直しが必要な箇所や規定例をご紹介させていただきます。

「多様な正社員」の規定例

規定例① 社員区分の定義

従業員区分を設け、「正社員」等の従業員と「限定正社員」を雇用区分毎に切り分けた例になります。

第○条(従業員の区分)

1 職種・職務、勤務時間及び勤務地等に関する雇用条件の違いにより、正社員と  限定正社員に区分することとする。
2 正社員及び限定正社員は次のとおり定義する。
(1)正社員・・・業務上根幹的な役割を担い、職種・職務・勤務時間や勤務地に関し、限定がない社員
(2)限定正社員・・・業務上根幹的役割を担い、職種・職務、勤務時間や勤務地などに関して一定の限度がある社員

就業規則本則に従業員区分について定め、雇用区分ごとに別途就業規則を定めている会社様も多いかと存じます。各従業員に対し、どの労働条件が適用されるのかを明確にする為にも見直してみるポイントになるかもしれません。

規定例② 限定される内容を詳細に定めた場合

従業員区分を設けた上で、限定内容を詳細に定めた場合の規定例になります。

第○条(従業員の区分)
1 職種・職務、勤務時間及び勤務地等に関する雇用条件の違いにより、正社員と限定正社員に区分することとする。
2 正社員及び限定正社員は次のとおり定義する。
(1)正社員・・・業務上根幹的な役割を担い、職種・職務・勤務時間や勤務地に関し、限定がない社員
(2)限定正社員・・・労働契約上、次の通り人事異動等が制約される、基幹的な           役割を担う正社員群のことをいい、限定部分についてはその範囲内での役割を担いながら、非限定部分については正社員と同様の役割を担う

①職務限定正社員・・・職種・職務について限定
②勤務時間限定正社員・・・次のとおり勤務時間あるいは勤務時間帯について現定

イ.勤務時間限定・・・所定労働時間を正社員と比べて一定時間短く限定、あるいは時間外労働を行わせない。
ロ.勤務時間帯限定・・・勤務時間帯あるいは勤務曜日を限定

③勤務地限定正社員・・・次の通り、勤務地について限定
イ.地域限定型・・・勤務事業所の範囲を一定の地域に限定
ロ.地区限定型・・・勤務事業場の範囲を一定地区に限定
ハ.事業所限定型・・・勤務地を特定の事業場に限定

その他にも、週休3日制で働く限定正社員等も考えられます。各社毎に限定正社員をどういった意図で導入し、労使双方の労働条件について明確化させる為にも修行規則の役割は大きいものであります。

規定例③ 労働条件の明示

第○条(労働条件の明示)  
会社は正社員及び限定正社員の採用に際して、労働契約の期間の定めがないことを示した 上で、次の事項については採用決定通知とともに労働条件通知書に明示し、その他の事項については他の方法で明示する。 
(1)賃金の決定・計算、支払方法、賃金の締切り、支払時期 
(2)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(変更の範囲を含む。)
(3)始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無、 労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 
(4)退職に関する事項(解雇の事由を含む。) 

2 前項第2号及び第3号に定める事項に関して、 限定がある場合には、その限定内容についても労働条件通知書に明示する。

就業規則に「労働条件の明示」についての定めを設ける意図といたしましては、労働契約法第4条第2項では、労働契約の内容をできる限り書面で確認することとしているため、職務、勤務時間、勤務地といった限定内容について労働条件通知書で労使双方が確認しておくことが重要と判断した為ご紹介させていただきました。

まとめ

2024年4月直前まで、新ルールへの準備で大忙しだったと思います。人事担当者としては一息つきたいところですが、今後も社内への周知や、勤怠管理のチェックなどが大切になります。

さらに、2024年は6月に定額減税、10月に社会保険の適用拡大などを控えている事業所もあるでしょう。日常業務をこなしつつ、新ルールへの対応は大変なことだと思いますが、対応漏れがないよう気をつける必要があります。キテラボからも皆さまのお役に立つような情報を発信していきますので、ぜひご活用ください。

(関連記事)【2024年重要トピック】法改正やルール変更のまとめ!人事労務担当者向け

この記事を書いた人

伊藤 嵩人
社会保険労務士

株式会社KiteRa エキスパートグループの社会保険労務士。

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