TOP労務コラム裁量労働制のルール変更とは?社労士が導入の経緯や注意点などを解説【2024年重要トピック】

裁量労働制のルール変更とは?社労士が導入の経緯や注意点などを解説【2024年重要トピック】

佐々木 光成
2024.03.21

社会保険労務士の佐々木 光成(株式会社KiteRa)です。

2024年4月の重要トピックの一つに、「裁量労働制に関する法改正」があります。「対応漏れがないか確認したい」「導入を検討している」という人事労務担当者の方もいらっしゃると思います。重要な改正となりますので、2024年4月の施行前に、変更内容を確認しておきましょう。

(備考)本記事は2024年3月9日時点の情報で執筆しております。
(参照)厚生労働省 裁量労働制の概要e-GOV法令検索  労働基準法施行規則
(関連記事)裁量労働制とは?実務上のポイントも解説します。

裁量労働制の改正経緯 

政府は裁量労働制に関し、労働者と使用者の両方にとって有益な制度となるよう本制度に関する議論を重ね、2022年7月に次のような報告書を公開しています。

(出典引用)厚生労働省 第176回 労働政策審議会労働条件分科会 これからの労働時間制度に関する検討会報告書 概要

本審議会では裁量労働制についての実態調査に基づく現状把握と課題の洗い出しが行われています。

  1. 1日の平均実労働時間数は適用労働者の方が若干長い
  2. 適用労働者の制度適用への不満は少ない。平均的に見て、制度適用で労働時間が著しく長くなる、処遇が低くなる、健康状態が悪化するとはいえないという結果
  3. 業務の遂行方法等の裁量の程度が小さい場合に長時間労働となる確率等が高まる
  4. 年収が低くなるに伴って制度適用の満足度も低くなる
  5. 労使委員会の実効性がある場合、長時間労働となる確率等が低下

こういった課題に対して、対象業務の明確化や制度適用に関する同意と同意撤回について明確化するよう対応するとされ、裁量労働制に関して法改正を行う運びとなりました。

専門業務型裁量労働制の改正内容

(1)対象業務の拡大

専門業務型裁量労働制の対象とすることができる業務は従来19種類とされていましたが、新たに1つ業務が追加され、次の20種類と定められました。

本改正では 「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(いわゆる「M&Aアドバイザリー業務」)が追加されることとなりました。

1新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
2情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であって、プログラムの設計の基本となるものをいう。[7]において同じ)の分析または設計の業務
3新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という)の制作のための取材もしくは編集の業務
4衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
6広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
13銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
14公認会計士の業務
15弁護士の業務
16建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
17不動産鑑定士の業務
18弁理士の業務
19税理士の業務
20中小企業診断士の業務

「銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務」については以下の点について注意する必要があります。

  1. 対象労働者が「調査又は分析」と「考案及び助言」の両方の業務に従事している必要があり、複数名のチームを構成し、それぞれの業務を分業している場合は本制度の対象とすることはできないこと
  2. M&A仲介会社の労働者について本制度の対象とすることはできず、あくまで銀行又は証券会社の業務として同社の顧客のM&Aに関する業務に従事している必要があること
  3. M&Aアドバイザリー業務に従事しつつ、それ以外の業務にも従事する場合は、その他の業務が短時間であったとしても本制度を適用することはできないこと

(2)労使協定事項の追加

専門業務型裁量労働制は導入するために労使協定を締結する必要があります。この協定すべき事項が追加されることとなりました。

(出典引用)厚生労働省 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です 紫枠部分はキテラボ編集部で加工。

紫枠で囲んだ部分が新しく追加された部分であり、2024年4月以降、本制度を利用するためには労使協定にこの内容を盛り込み、適切に適用しようとする従業員から制度適用についての同意を得る必要があります。

(参考)厚生労働省 専門業務型裁量労働制の解説

なお、就業規則による包括的な同意は個別の同意として認められず、必ず従業員個人から直接同意を得なければなりません。この同意は従業員が制度の概要について十分理解し、納得して同意することが必要です。口頭の説明だけではなく書面(Eメール、チャット等の電磁的な方法を含む)を使い説明することがより適切でしょう。厚生労働省では、同意取得の際の説明書の例を用意しております。必要に応じて利用することも可能です。

本人同意を得るに当たって労働者に明示する書面の例

(出典引用)厚生労働省 専門業務型裁量労働制の解説

この同意に関する記録は労使協定の有効期間中とその満了後3年保存しなければなりません。適切に保存してください。その他、同意取得及び同意撤回について、次の点にも注意(※3)する必要があります。

  1. 裁量労働制についての同意は撤回できるという前提で制度を構築する必要があること
  2. 裁量労働制の協定の有効期間ごとに取得する必要があるため、有効期間満了後に再度労使協定を締結し制度を適用する場合には、改めて従業員からの同意を得なければならないこと。なお、再度の同意取得の場合であっても制度概要などを改めて説明することが適切であること。
  3. 同意の撤回申出や撤回日について定めることは可能であるが、撤回の申出から制度の適用解除までの期間を必要以上に長くすることは不適当であること。なお、基本的に同意撤回は従業員の任意の時点で申出ることができ、申出時点で適用解除されることが適切という点に留意する必要があること

   ※3 専門業務型裁量労働制だけでなく、企画業務型裁量労働制も同様(労使協定は決議と読み替え)です。

(3)専門業務型裁量労働制に関する協定届の様式変更

協定項目が増えたことにより2024年4月以降の期間について専門業務型裁量労働制を行おうとする場合に必要な届出様式も変更されています。その内容を見てみましょう。

・2024年3月までの様式

・2024年4月以降の様式

新たな様式は紫枠で示した部分が追加されております。

■企画業務型裁量労働制の改正内容

(1)労使委員会運営規程の規定事項の追加

企画業務型裁量労働制は労使委員会があることが条件の一つになっています。

企画業務型裁量労働制の導入にあたっては、賃金、労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議し、その内容について使用者に意見を述べることを目的とした労使委員会を設置する必要があります。また、裁量労働制を導入するためには、労使委員会では一定の事項について、出席委員の5分の4以上の多数による議決を行わなければなりません。

今回の改正では、労使委員会の運営規程に定める内容と、労使委員会で決議すべき事項の両方が追加されています。どちらも企画業務型裁量労働制を導入・継続するために必要ですので、改正内容を確認しておく必要があります。

(1)- 1 労使委員会運営規程の規定項目の追加

労使委員会の運営規程に定める必要がある事項は次のとおりです。

(出典引用)厚労省 企画業務型裁量労働制の解説

労使委員会運営規程に定める必要がある項目として、新たに次の事項について定めることとされました。

  1. 対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について使用者から労使委員会に対して行う説明に関する事項(説明を事前に行うこと、説明項目など)
  2. 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法)
  3. 労使委員会は6か月以内ごとに1回開催すること

継続的に運用している事業所は従前の運営規程に追記を、新たに制度を設けようとする事業所は上記の内容を盛り込んだ労使委員会運営規程を用意する必要があります。

(2)決議事項の追加

企画業務型裁量労働制を実施しようとする場合、労使委員会を開催し、定められた内容を決議しなければなりませんが、その決議事項が追加されました。

(出典引用)厚生労働省 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です 紫枠部分はキテラボ編集部で加工。

今回の改正で「制度の適用に関する同意の撤回の手続き」と「対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと」、「同意の撤回に関する労働者事の記録を決議の有効期間中とその満了後3年間保存すること」が加えられました。

対象となる従業員の同意の撤回に関する手続きについて決議する必要があります。撤回の申出先となる部署や担当者、撤回の申出方法などを具体的に定めておく必要があります。

その同意を撤回した場合の撤回後の配置や処遇の決定方法について、予め決議しておくことが望ましいとされていますので、申出のフローだけではなく申出後に適用される労働時間制度等(通常の労働時間制度、変形労働時間制など)の労働条件等を検討するのが良いでしょう。

(3)企画業務型裁量労働制に関する届出の様式変更

企画業務型裁量労働制に関する届出様式は「企画業務型裁量労働制に関する決議届」と「企画業務型裁量労働制に関する報告」の2種類です。法改正にともない、どちらも一部変更になっているので、状況に併せて適切な様式を使用しましょう。

(3)-1 企画業務型裁量労働制に関する決議届

2024年3月末までの企画業務型裁量労働制に関する決議届

2024年4月以降の企画業務型裁量労働制に関する決議届

(紫枠の内容が追加事項)

(3)-2 企画業務型裁量労働制に関する報告

2024年3月末までの企画業務型裁量労働制に関する報告

2024年4月1日以降の企画業務型裁量労働制に関する報告

(紫枠の内容が追加事項)

実務上の注意点

(1)健康・福祉確保措置に関する変更

今回の改正では、労使協定事項、労使委員会運営規程及び決議事項の追加だけではなく、様々な留意事項が追加されております。その中でも健康・福祉確保措置は実務上重要な位置を占めているので確認しておく必要があるでしょう。

(出典引用)厚生労働省 企画業務型裁量労働制について

今回の改正では「勤務間インターバルの確保」、「深夜労働の回数制限」、「労働時間の上限措置」、「一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導」などが追加されています。

(2)届出日の注意点

(出典引用)厚生労働省 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です

2024年4月1日以降、専門業務型・企画業務型の裁量労働制を実施する場合、労使協定や決議は改正後のルールに従った内容である必要があります。2024年3月末以前から引き続いて2024年4月1日以降も実施する場合は2024年3月末以前に協定・決議のうえ労働基準監督署へ届け出る必要があります。

(3)不同意、同意撤回の場合の対応の確認

今回の改正で裁量労働制を適用しようとする場合に同意の取得が必要になることだけではなく、同意の撤回についても定めなければならなくなりました。裁量労働制を適用しようとしている従業員からの同意取得が出来なかった場合や、同意取得済みで裁量労働制を適用している従業員から同意を撤回すると申出られた場合に備え給与、労働時間制、その他労働条件を事前に決めておく必要があるでしょう。

裁量労働制の撤回後の処遇について、労働時間制度をどうするのか(通常の労働時間制か、変形労働時間制かなど)という論点や基本給、手当を変更するのかという論点があります。不同意、撤回時に労働条件がどのように変わるのかは同意取得時の説明書に明記するだけでなく、就業規則に記載し、周知を行うべきでしょう。

また、専門業務型裁量労働制が現に適用されている従業員が多い事業所は、数人でも不同意や同意を撤回する従業員が出た場合、待遇への不公平感が高まり、不同意や同意を撤回する従業員が増える可能性もあります。そのような場合でも対応できるよう、裁量労働制に頼らずとも会社を運営できるようにしておくのが望ましいと思われます。

まとめ

裁量労働制を導入または継続するときだけの対応ではなく、裁量労働制が不同意、撤回されたときの対応も準備しておきたいです。不同意、撤回されたときの対応は、就業規則への記載と周知も重要になってきます。

さらに、2024年は4月の裁量労働制のルール変更以降も、6月は定額減税という大きなトピックがあります。日常業務をこなしつつ、新ルールへの対応は大変なことだと思いますが、対応漏れがないよう気をつける必要があります。キテラボからも皆さまのお役に立つような情報を発信していきますので、ぜひご活用ください。

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この記事を書いた人

佐々木 光成
社会保険労務士

株式会社KiteRa エキスパートグループの社会保険労務士。

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