TOP労務ガイド休職とは?人事労務担当者が押さえるべき注意点を解説。休職期間や賃金支払い、復職の条件など

休職とは?人事労務担当者が押さえるべき注意点を解説。休職期間や賃金支払い、復職の条件など

西岡 秀泰
2024.05.10

社会保険労務士の西岡秀泰です。

今回は「休職」について解説します。

「メンタル不調と診断された。しばらく休みたい」「自己啓発のため半年間留学したい」など従業員から相談を受けることも多いと思います。休職制度は労働基準法に定めがなく、期間や賃金支払い、復職の条件などが企業ごとに異なります。人事労務担当者として押さえておきたいポイントを解説します。

休職とは

休職とは、会社が従業員に対して、社内規程に基づき業務を免除する長期休暇を与えることです。そのため、社内規程を明確に整えておく必要があります。以下、休職期間や類似制度との違いなどを説明します。

休職期間

休職期間とは、一般的に会社の承認を得て従業員が自己都合で一定期間会社を休む期間を言います。

休職期間は、従業員からの申し出(会社が勧奨することもある)に対して会社が社内規程を基に判断し、承認することによって決定します。社内規程が曖昧だと判断が難しくなるため、就業規則に休職の理由や期間を記載するなど社内規程の整備が必要です。

また、従業員が自由に取得できる法定の年次有給休暇と異なり、休職期間中に原則給与は支給されません。もっとも、休職理由によっては会社が給与や手当を支給しても問題ありません。

休職理由

休職理由は、休職を申し出る従業員によってさまざまです。病気などで仕事ができないケースや留学など従業員が任意で休職を希望するケースなどがあります。主な休職理由は、次の通りです。

  • 傷病休職:労災以外の病気やケガによる休職
  • 自己都合休職:留学や資格取得、ボランティアなど本人希望による休職
  • 出向休職:関連企業への出向時に休職扱いにすること
  • 組合専従休職:労働組合の業務に従事するための休職 など

休職期間中は原則無給とすることが一般的ですが、休職理由によっては健康保険の傷病手当金(要件を満たした場合)などのように給付が受け取れるケースもあります。出向休職中や組合専従休職中に出向先や労働組合から給与が支給されることもあります。

また、会社が体調不良の従業員に傷病休職を取らせるなど、会社が休職を勧奨することもあります。

(関連記事)社員の健康管理とメンタルヘルス対策の基本 | 労務担当者1年目必読

休職と休業の違い

休職と休業の主な違いは、会社を休む理由と給与の有無などです。休職理由は自己都合など企業が任意で決めたものですが、休業理由は会社の都合または法律上の定めによるものに限定されます。また、原則無給の休職と異なり、休業したときは給与や社会保険の給付があります。

主な休業の種類は次の通りです。()内は支給される給与や社会保険の給付です。

  • 会社都合の休業(休業手当・平均賃金の60%以上)
  • 産前産後休業(健康保険の出産手当金)
  • 労働災害による休業(労災保険の休業(補償)給付)
  • 育児休業や介護休業(雇用保険の育児休業給付、介護休業給付)

労働災害による病気やケガで会社を休む場合は「休業」、労災以外の病気やケガが原因の場合は「休職」となるので混同しないように注意しましょう。

人事労務担当者として注意するポイント

休職に関して、人事労務担当者が注意するポイントを休職前や休職中、復職前後に分けて解説します。

(1)休職前

給与の支払いについて

休職前には、給与の支払いの有無について従業員に明確に伝えるようにしましょう。「ノーワーク・ノーペイ」の原則により休職中は無給であるのが一般的ですが、給与の支払いを期待している従業員がいるかも知れないからです。

就業規則などで休職中の給与の有無について明記して周知しましょう。賞与についても同様です。賞与については、賞与の有無のほか、査定期間中に就業する期間と休職期間がある場合の対応も伝えておくといいでしょう。

社会保険料について

休職中でも社会保険料の支払いが必要です。支払いが必要な社会保険料は厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料(40歳以上の場合)で、雇用保険料は不要です。

社会保険料の納付は会社が行うため、従業員負担分は休職中の従業員から徴収しなければなりません。休職前に、従業員に社会保険料を徴収することと納付方法を伝えておきましょう。徴収方法には、会社口座に振り込んでもらう方法や復職後の給与から天引きする方法などがあります。

(関連記事)休職中の従業員からの社会保険料等の徴収の注意点

傷病手当金などの給付金について

傷病休職の場合、一定の要件を満たせば健康保険から傷病手当金が支給されます。傷病手当金の内容や手続き方法について従業員に伝えておきましょう。

傷病手当金の主な支給要件は次の通りです。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

傷病手当金の請求は加入する健康保険組合や協会けんぽに対して行いますが、休業状況や賃金の支給状況について事業主の証明が必要であることから、会社経由で申請することもあります。

そのため、傷病手当金の請求方法についても従業員と事前に打ち合わせを行いましょう。

休職中の連絡手段について

休職中の従業員との連絡方法についても、休職前に確認しておきましょう。次のようなケースで、従業員と連絡を取らなければならないこともあります。

  • 業務に関する照会
  • 傷病手当金の申請や社会保険料の支払いなど従業員に関する手続きの相談
  • 復職に向けた打ち合わせ など

休職中に連絡できる本人の携帯電話番号やメールアドレスなどを確認しておきましょう。本人が入院中などで直接連絡できない場合や緊急時に備えて、家族の連絡先なども必要です。

また、休職中の状況確認のために定期的に連絡をもらうようにしたり、復職時期の延期が予想される場合は直ぐに連絡するように伝えたりするなど、必要に応じて連絡のタイミングも設定するといいでしょう。

年次有給休暇について

休職中は原則無給となるため、休暇中も給与が支給される年次有給休暇(以下、有給)を活用する方法もあることを従業員に伝えておきましょう。有給を取得するかどうかの選択肢は従業員にありますが、有給を取得したほうがメリットを感じる従業員もいるからです。

有給が十分残っていて繰り越しが見込まれる従業員で休職期間が数週間程度の場合、有給取得によって収入を確保しながら仕事を休むことも可能です。

また、病気療養など休職理由によっては休職期間が確定しないケースもあります。早期復職を想定して当初は有給を活用し、復職までに時間がかかりそうなら休職に切り替えるという方法もあります。

(関連記事)年次有給休暇の基礎知識!取得推進のメリットや注意点を紹介

昇進や昇給などの条件への影響について

休職することによって昇進や昇給に影響を及ぼす場合、休職する前に従業員にその影響を説明しておきましょう。復職後に昇進や昇給への影響を受けた従業員が不満を感じて、モチベーションが下がったりトラブルになることを避けるためです。

業務実績や勤務状況によって昇進や昇給に悪影響が出るケースも考えられますが、社内規程に基づいて申請した休職を邪魔するために、悪影響を誇張して伝えたりすることは避けましょう。パワハラに該当したり、傷病休職の申請の場合は労働安全衛生法違反に該当したりする可能性もあります。

(2)休職中

連絡が取れないときの対応

休職中の従業員に電話やメールで連絡して応答がない場合、まずは留守番電話やメールで会社が連絡を求めていることを伝えます。また、連絡したことを記録しましょう。従業員に万一のことがあった場合や従業員が応答を拒否していた場合、会社が適切に対応していた証拠となります。

何度連絡しても応答がない場合、家族や緊急連絡先、主治医(傷病休職の場合)などに連絡します。不測の事態が発生している可能性もあり、本人の安否確認を行うためです。自宅を訪問して確認する方法もあります。

休職期間の延長検討

休職期間は休職前に決めておくのが一般的ですが、状況によっては休職期間が延長になることもあります。主なケースは次の通りです。

  • 病気やケガの治療が予定より長引いている
  • 従業員が資格取得やボランティアのための休職の延長を希望している など

病気やケガの場合、本人や医師の診断書などで状況を確認し就業が無理なら休職期間を延長せざるを得ないでしょう。ただし、社内規程で定めた休職期間の上限を超える場合、就業規則に基づいて退職または解雇とするケースもあります。

(3)復帰前

復職判断について

休職中の従業員が復職する際には、復職して問題がないかを慎重に判断する必要があります。たとえば、病気で傷病休職の従業員が十分に治癒する前に無理して仕事に復帰すると、病気が再発したり悪化したりするケースも考えられるからです。

傷病休職の従業員の復職を検討する際は、主治医の診断書で「就業可能」であることを確認するとともに、従業員の意思や健康状態をきちんと確認して判断しましょう。特に、メンタルヘルス不調により休職した従業員に対しては、産業医に相談するなど慎重な対応が必要です。

職場復帰への支援について

休職理由によっては、復職後に従来通りの仕事に復帰するまでに支援が必要なケースもあります。復職前に従業員と話し合いを行い、復職への不安を軽減するとともに円滑な復帰を図りましょう。

主な復帰支援策は次の通りです。

  • 肉体的または精神的に負荷の小さな業務から始める
  • 残業や休日出勤を避ける
  • 短時間勤務の適用や出勤日数を減らすことにより労働時間を減らす
  • 継続治療のための休暇の取得や遅刻・早退をしやすくする など

(4)復帰後

業務量について

復帰後の勤務時間や業務量については復帰前に決めておくのが望ましいですが、実際に業務を始めてわかることもあります。復帰後しばらく様子を見て、業務量の調整が必要なケースもあるでしょう。

上司は従業員が円滑に仕事に復帰できるように配慮するとともに、従業員の体調や仕事の進捗状況などを把握するようにしなければなりません。

人事担当者も上司からの報告で復帰後の状況把握を行うとともに、復帰から一定期間経過後に従業員と面談して直接情報を収集するという方法もあります。また、状況によっては、主治医や産業医などの専門家への相談が必要になるケースも考えられます。

まとめ

休職とは、会社が従業員に対して、社内規程に基づき業務を免除し長期休暇を与えることです。休職を認めるかどうかは会社が判断しますが、判断基準を明確にするために社内規程を整備することが重要です。

(キテラボ編集部より)
社内規程管理クラウド「KiteRa Biz」には、受診の勧奨、休職の判断、休職発令、休職期間、試し出勤、復帰の判断など、就業規則に規定すべき条文が網羅されています。詳細は、こちらのサービス紹介資料にまとめてあります。

この記事を書いた人

西岡 秀泰
西岡社会保険労務士事務所 代表

プロフィール

生命保険会社に25年勤務し、FPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。2017年4月に社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務している。

セミナー・イベント