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アルバイトにも雇用契約書は必要?書くべき内容と注意点も解説

KiteLab 編集部
2024.03.15

正社員を雇うときには雇用契約書を作成しても、アルバイトを雇うときには作成しないという事業主の方も多いのではないでしょうか。

雇用契約書を作成しなくても違法ではありませんが、書面を取り交わしておかなければ「労働条件が約束した内容と違う」などのトラブルが発生することも少なくありません。このようなトラブルを防止するためには、アルバイトを雇うときにも雇用契約書を作成して取り交わしておいた方がよいといえます。

今回は、アルバイト用の雇用契約書の書き方や注意点について詳しく解説します。

雇用契約書とは

雇用契約書とは、雇用主と労働者が合意したルールを記載した書面のことです。労使双方が記載内容を確認した上で、それぞれ署名・押印します。同じ内容の書面を2通作成し、雇用主と労働者が1通ずつ保管するのが一般的です。

雇用契約書の法的な役割としては、労働契約が成立したことと、労働条件の内容について労使双方が合意したことの証明になるという点が重要です。実務上の役割としては、それに加えて、労使双方が「約束したルールをしっかり守ろう」と確認し合うという点も挙げられます。

アルバイトにも雇用契約書は必要?

結論からいうと、労働条件をめぐるトラブルを防止するためには、雇用契約書を作成して取り交わしておいた方がよいといえます。

以下で、詳しく解説します。

法律上は不要

民法上、雇用契約は口約束でも労使が合意さえすれば有効に成立するとされていて、契約書の作成は義務付けられていません。労働基準法など他の法律にも、雇用契約書の作成を義務付けた規定はありません。
したがって、法律上は労働者を雇う際に雇用契約書を作成する必要はないという結論になります。

この結論は、正社員を雇う場合でもアルバイトを雇う場合でも同じです。正社員を雇う際に雇用契約書を作成する企業が多いのは、長期的な雇用関係を想定していることから、労働条件に関するトラブルを防止するために、雇用手続きに万全を期していることによると考えられます。

労働条件通知書は必要

労働者を雇う際に雇用契約書の作成は不要ですが、「労働条件通知書」の交付は法律で義務付けられています(労働基準法15条1項、同施行規則5条4項)。
労働条件通知書とは、雇用の際に、労働者が従事する業務の内容や賃金、労働時間などの労働条件を、雇用主から労働者へ通知するために交付する書面のことです。労働条件は労働者の生活を左右する重要な事柄なので、雇用主は雇用契約を締結する前に労働条件を明示しなければならないとされています。労働条件を明示する方法としては、「言った・言わない」のトラブルを防止するために、一定の重要な事項については書面の交付が原則とされています。この「書面」が労働条件通知書です。

雇用契約書と労働条件通知書の違いは、雇用契約書は労使双方が署名・押印して作成するものであるのに対して、労働条件通知書は雇用主が一方的に交付するものに過ぎないという点にあります。労働条件通知書には、雇用主が明示した労働条件に労働者が合意した事実を証明する効力はありません。
そのため、労働条件に関する「言った・言わない」のトラブルを防止するためには、雇用契約書を取り交わしておいた方が望ましいといえるのです。

なお、労働条件通知書を交付せずに労働者を雇うと、雇用主に30万円以下の罰金が科せられることがあります(労働基準法120条1号)。

雇用契約書と労働条件通知書を兼ねることも可能

法律上、労働条件を明示するために交付する書面の表題や様式は特に定められていません。
そのため、雇用契約書と労働条件通知書を兼ねた書面を作成し、労働者へ交付することも認められます。アルバイトを雇うときにも労働条件通知書の交付は必要なので、雇用契約書を兼ねた内容にすることを検討してみるとよいでしょう。
そうすることで、事務的な負担を軽減しつつ、労働条件に関するトラブル防止の効果を上げることが可能となります。

ただし、労働条件通知書の記載事項については、法律で細かなルールが定められています。雇用契約書と労働条件通知書を兼ねることを前提として、アルバイト用の雇用契約書の書き方を次章で解説します。

アルバイト用の雇用契約書の書き方

雇用契約書は正社員用とアルバイト用に分けられているわけではありませんが、アルバイトに特有の記載事項もあります。
そのため、ここではアルバイトを雇う場合に作成する雇用契約書の書き方をご説明します。

記載が義務付けられている事項

労働条件通知書を兼ねた雇用契約書には、必ず以下の事項(絶対的明示事項)を記載しなければなりません(労働基準法15条1項後段、同施行規則5条3項)。

  1. 労働契約の期間
  2. 就業場所および業務内容
  3. 始業と終業の時刻
  4. 所定労働時間を超える労働の有無
  5. 休憩時間や休日、休暇、交替勤務の場合は就業時転換に関する事項
  6. 賃金の決定、計算、支払いの方法、支払い時期、昇給に関する事項
  7. 賃金の決定、計算、支払いの方法、支払い時期、昇給に関する事項

労働契約の期間

アルバイトを雇う場合には労働契約の期間を定めることが多いですが、定めないこともできます。雇用契約書には、契約期間を定めるのか否か、定める場合には開始日と満了日を記載します。

就業場所および業務内容

労働者にどこで、どのような仕事をさせるのかは労働契約の重要な要素です。就業場所については、「本社内」や「○○支店内」のように、場所を特定して記載します。外回り業務などで仕事場が一定でない場合は、「△△地域内」というように記載します。業務内容については、「事務職」や「営業職」のように、担当させる業務の内容を特定して記載します。

始業と終業の時刻

出勤日の始業時刻と終業時刻を記載します。シフト制の場合は、勤務予定のパターンを以下のように網羅的に記載するようにしましょう。

  • A勤務:午前9時~午後4時
  • B勤務:午後0時~午後7時
  • C勤務:午後3時~午後10時 など

所定労働時間を超える労働の有無

残業(時間外労働)をさせる予定があるかどうかは、雇用契約書に記載しておく必要があります。
ただし、残業の予定時間数まで記載する必要はありません。

なお、所定労働時間とは、1日8時間・週40時間の法定労働時間(労働基準法32条1項)の範囲内で、労使の合意によって定める労働時間のことです。法定労働時間を超えるかどうかではなく、所定労働時間を超える労働の有無を記載する必要があることにご注意ください。

休憩時間や休日、休暇、交替勤務の場合は就業時転換に関する事項

休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上を、労働時間の途中で与える旨を記載します(労働基準法34条1項)。

休日は、原則として週に1日以上を与える必要があります(労働基準法35条1項)。毎週決まった曜日に休日を与える場合は、何曜日を休日とするのかを記載しましょう。シフト制の場合は、週に最低限与える休日の日数を記載した上で、「毎月作成するシフト勤務表による」というように記載します。

休暇については、アルバイトでも6ヶ月以上にわたって勤務を継続し、全労働日の8割以上出勤した人に対しては、10日以上の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条1項)。
したがって、雇用契約書には、雇用開始日から6ヶ月経過後に何日の年次有給休暇を与えるのかを記載します。その他にも、慶弔休暇や夏季休暇、年末年始休暇など特別な休暇(会社が決めた休暇)を与える場合は、どのような休暇を与えるのかを記載しましょう。

交替勤務とは労働者を2組以上に分けて就業させることであり、昼勤・夜勤に分ける場合だけでなく、シフト制も交替勤務に当たります。交替勤務の場合の「就業時転換に関する事項」は、例えば次のように記載します。

  • A勤務:午前9時~午後4時(午後0時~午後0時45分は休憩)
  • B勤務:午後0時~午後7時(午後3時~午後3時45分は休憩)
  • C勤務:午後3時~午後10時(午後6時15分~午後7時は休憩) など

賃金の決定、計算、支払いの方法、支払い時期、昇給に関する事項

賃金については、アルバイトの場合は時給制で採用することが多いでしょう。その場合は、時給を何円とするのかを記載します。日給制や月給制とする場合も、それぞれの金額を記載しましょう。基本給だけではなく諸手当についても、どのような手当をいくら支給するのかを記載する必要があります。

時間外労働や休日労働、深夜労働をさせる場合は、それぞれの割増賃金率も記載します。

そして、毎月何日までの給料をいつ、どのような方法で(振り込み、手渡しなど)支払うのかについても記載が必要です。

また、昇給の仕組みがあるか否か、ある場合は仕組みの内容を簡潔に記載しましょう。

退職に関する事項(解雇事由を含む)

退職に関する事項としては、どのような場合に労働者が退職することになるのかを記載します。死亡などによる「当然退職」、労働者からの申出による「任意退職」、会社都合による「解雇」について、漏れがないように記載する必要があります。

必要に応じて記載した方がよい事項

雇用契約書には、記載が必須ではなく、定めがある場合は記載する事項(相対的明示事項)もあります。

  1. 労働者の費用負担が発生するもの(食費、作業用品など)
  2. 安全衛生に関するもの
  3. 職業訓練に関するもの
  4. 災害補償及び業務外の傷病扶助
  5. 表彰及び制裁
  6. 休職に関する事項
  7. 各種手当

さらに、労働者への明示が義務付けられているわけではありませんが、以下の事項は記載しておいた方がよいといえます。

  1. 服務規律に関する事項(懲戒処分の種類や条件を含む)
  2. 試用期間に関する事項(期間の他、延長や短縮することがあるか否かなど)
  3. 社会保険に関する事項(一定の要件を満たす労働者は加入させる義務がある)

その他にも、職種や職場の実情に応じて、必要な事項があれば記載するようにしましょう。
例えば、制服を着用させるか否か、秘密保持義務の有無や内容、スマートフォンやSNSの利用規制などを記載している例が多いです。

アルバイトに特有の記載事項

アルバイトを雇うときには、前記の絶対的明示事項に加えて、次の4つの事項についても文書による明示が義務付けられています(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律6条1項、同施行規則2条1項)。

  1. 昇給の有無
  2. 退職手当の有無
  3. 賞与の有無
  4. 相談窓口

昇給、退職手当と賞与については、「有無」のみを記載すればよいこととされていますが、「有」とする場合は条件も簡潔に記載しておいた方が望ましいといえます。

退職手当については勤続年数の条件、賞与については年に何回、何月に支給するのかを記載するとよいでしょう。

相談窓口については、専門の部署を新設する必要はありませんが、担当の部署を決めるようにしましょう。雇用契約書への記載としては、「本社 人事部」や「本社 総務部」といった記載でも足りますが、担当者の氏名や連絡先も記載する方が望ましいです。

2024年4月以降に記載が必須となる事項

2024年4月1日から改正された労働基準法と同施行規則が施行されることに伴い、次の2点も労働契約を締結する際の雇用契約書への記載が必須となります。

  • 就業場所や業務内容の変更の範囲(変更が想定される場合)
  • 契約期間や更新回数の上限の有無と内容(期間を定めて雇用する場合)

アルバイトの雇用契約書に関する注意点

アルバイト用の雇用契約書の書き方をご紹介しましたが、雇用した労働者とのトラブルを防止するためには、特に以下の点に注意して雇用契約書を作成することをおすすめします。

記載内容を十分に説明すること

法的には不要な雇用契約書を作成する大きな目的は、労使双方で合意した労働条件について、お互いに確認し合うことにあります。
そのため、雇用契約書に署名・押印を求める前に記載内容を十分に説明することが重要です。「雇用契約書を渡すので、読んでおいてください」または面前で文面を読み上げる、「質問はありますか?」と従業員側に委ね特段説明をしないというような対応では、労働者が記載内容を隅々まで確認して正しく理解する可能性は低いと考えるべきでしょう。十分に理解されなければ、認識の違いからトラブルに発展するおそれが大いにあります。

雇用契約書を2部作成すること

雇用契約書は同じものを2部作成し、1部を労働者へ交付して保管させるようにしましょう。

雇用する際に労働条件を十分に説明して理解を得たとしても、労働者が後々まで正確な記憶を保ち続けるとは限りません。むしろ、その可能性は低いと考えるべきでしょう。
そのため、必ず労働者にも雇用契約書を渡して、いつでも労働条件を再確認できるようにしておくべきです。

短期雇用や試用期間でも雇用契約書を作成すること

短期雇用や試用期間でも、労働契約を結ぶ以上は労働条件通知書の交付が必要です。
そのため、雇い入れ時に雇用契約書(兼労働条件通知書)を作成することをおすすめします。
そうすることで、労働条件を遵守するという自覚を促す効果が期待できます。

また、近年ではスマートフォンやSNSが普及したことにより、情報漏えいの危険性が高まっています。雇用契約書に秘密保持に関する事項を記載して取り交わしておけば、万が一、情報漏えいが生じた場合にも労働者の責任を追及しやすくなります。

正社員と不合理な格差をもうけないこと

労働条件の内容は、労働基準法の規程に違反しない限り、基本的には労使の合意によって自由に定めることができます。
ただし、正社員とアルバイトとの間に不合理な格差を設けないように注意する必要があります。
なぜなら、2020年4月から施行された短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(中小企業に対しては2021年4月から適用)で「同一労働同一賃金」の原則が定められているからです。

同一労働同一賃金の原則とは、同一の労働をするものに対しては雇用形態を問わず、同一の賃金を支給しなければならないという原則のことです。
具体的には、業務の種類や内容、その業務に伴う責任の程度、転勤・配置転換などの人事異動や昇進などの有無とその範囲などが実質的に同じであれば、正社員とアルバイトとで不合理な待遇差を設けたり、差別的な取り扱いをしたりすることが禁止されています(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、9条)。
したがって、アルバイトに正社員と同じような仕事をさせて同じような責任を負わせるのであれば、基本給や賞与、各種手当、福利厚生などについて、正社員に準じた待遇をする必要があります。

ただし、アルバイトには軽易な作業だけをさせる場合や、正社員と比べて勤務時間、また能力や経験等に明らかな差があるような場合に、合理的な範囲内で待遇に差を設けることは問題ありません。
この点、合理的な範囲と言えるかどうかは、使用者と従業員側で考えが分かれるケースもあり得ます。後のトラブル回避のためにも弁護士の意見書をとっておくこともおすすめです。

まとめ

アルバイトを雇うときに雇用契約書を作成しなくても、違法ではありません。
しかし、労働条件通知書を作成しないのは違法です。雇用契約書と労働条件通知書に記載すべき事項は大部分が共通していますので、「雇用契約書兼労働条件通知書」を作成することをおすすめします。

まずは使用者側で雇用契約書に記載する労働条件を検討し、アルバイトを採用する際には十分な説明と話し合いを経て合意するようにしましょう。
そうすることで、労働条件をめぐるトラブルの多くは防止できるはずです。

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