TOP労務コラム「2024年度からの医師の働き方改革」ポイントまとめ

「2024年度からの医師の働き方改革」ポイントまとめ

KiteLab 編集部
2023.03.29

 2024年(令和6年)度以降、診療に従事する勤務医には、時間外・休日労働時間の上限規制が適用されます。一般企業における働き方改革については、働き方改革関連法(2019年4月より順次施行)により長時間労働の改善に向けた取組みが既に行われているところですが、医師の働き方改革については5年の猶予期間が設けられ、適用が2024年4月に見送られる形となっていました。 

この猶予期間が設けられた背景には、業務の特殊性を考慮するという側面の他に、これまで我が国の医療が医師の長時間労働によって支えられてきたという事実が存在します。しかし、これと並行するように深刻な医師不足も問題となっており、今後医療介護ニーズがますます増加していく中で、医師の健康を確保しつつ医療の質・安全を担保していくことが課題ともなっています。

 このような状況を踏まえ、政府は医療法改正による制度面での整備を次の3つの視点で進めてきました。

医療法改正による制度面での整備
  • 医師の働き方改革
  • 各医療関係職種の専門性の活用
  • 地域の実状に応じた医療提供体制の確保

  • 時間外・休日労働時間の上限規制は「医師の働き方改革」の要でありながらも、「医師の2024年問題」とも囁かれてきたように、医療業を営む事業者にとっては厳しい条件であると言わざるを得ません。しかしながら、2024年4月以降、定められた上限を超える時間外・休日労働は許されないということも事実です。

     今回は、この医師の働き方改革の概要を今一度押さえながら、2024年4月に向けて押さえておくべきポイントを紹介していきたいと思います。

    医師の働き方改革の概要

    1)医師の働き方改革が行われる背景
    日本の医療は世界でもトップレベルと言われており、1970~2020年にかけて我が国の平均寿命は20歳以上伸びています。これは日本の医療体制の成果であると共に、「これまでの医師の働き方」によって成し遂げられてきました。
     厚生労働省のデータによると、病院常勤勤務医の時間外・休日労働時間は、約4割が960時間超、約1割が1,860時間を超えており、とりわけ救急・産婦人科・外科・若手医師などの長時間労働が目立つ結果となっています。日本の医療は「臨床・教育・研究」といった三位一体の医療制度によって構築されてきましたが、これは医師の長時間労働を伴って作り上げられてきたものとも言えるため、今回の医師の働き方改革においては、医療の質を担保するという観点も念頭に進められていかなければなりません。

    2)働き方改革関連法の医療機関の適用に関わる整理

    項目名
    規制の概要
    中小企業規模の医療機関
    それ以外の医療機関
    時間外労働の上限規制
    原則として月45時間、年360時間等とする罰則付きの上限規制を導入する
    医師を除き
    H32.4.1から適用
    医師を除き
    H31.4.1から適用
    割増賃金率
    月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を50%以上とする
    H35.4.1から適用
    (既に適用あり)
    年次有給休暇
    10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年時季指定して与えなければならないとする2
    H31.4.1から適用
    労働時間の状況の把握
    省令で定める方法(現認や客観的な方法となる予定)により把握をしなければならないとする
    H31.4.1から適用
    産業医
    産業医が行った労働者の健康管理等に関する勧告の内容を衛生委員会に報告しなければならないとする等
    H31.4.1から適用
    (ただし、産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場)

    ※1 医療業における“中小企業”の基準⇒企業単位でみてi)資本金の額又は出資の総額が5千万円以下又はii)常時使用する労働者の数が100人以下(なお、持分なし医療法人や社会福祉法人等の「資本金」や「出資金」がない法人格の場合は、法人全体の常時使用する労働者の数のみで判断する) ※2 労働者が時季指定したり計画的付与したものは除く

    働き方改革関連法については、大企業・中小企業共に既に適用が開始されており、医療業においても医師以外の職種には既に適用されています。医師については既述のとおり2024年(令和6年)度から適用猶予が撤廃され、ここから医師の働き方改革が本格的に始動するわけですが、医師の労働時間に関するポイントは上記表の赤文字部分となります。


    それではここからは、この内の「時間外労働の上限規制」と「労働時間の状況の把握」に焦点を当てて述べていきたいと思います。

    医師の働き方改革で押さえておくべきポイント

    医師の働き方改革では、医師の労働時間の上限規制に向けて次の措置が講じられています。

    長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等
    ①医師労働時間短縮計画の作成
    ②医療機関に適用する水準の創設と認定
    ③健康確保措置

    これらを踏まえた上で、具体的にどのように準備が進められていくのかを見ていきましょう。


    1)医療機関の特性に応じた上限規制の適用分類(ABC水準)
     新制度においては、勤務先医療機関の特性に応じて都道府県知事より特例水準対象医療機関の指定が行われ、これによって時間外・休日労働の上限時間が異なります。
    下の表は、医療機関に適用される新水準と上限規制・健康確保措置等の適用についてまとめたものです。

    医療機関に適用する水準
    医療機関の特性
    年の上限時間
    面接指導
    休憩時間の確保

    A(一般労働者と同程度)

    時間外・休日労働が年960時間を超えない

    960時間

    義務

    ※A水準については条件による

    努力義務

    連携B(医師を派遣)

    地域医療のために医師を派遣

    1,860時間

    ※2035年度を目標に終了

    義務

    B(救急、在宅医療など)

    地域医療に貢献

    Cー1(臨床・専門研修)

    研修医・専攻医
    ※集中的に経験を積む必要がある

    1,860時間

    Cー2(高度技能の修得研修)

    特定の高度技能の習得のため、長時間修得に要する

    A水準以外の各水準は医療機関ごとに指定されますが、ここで注意すべきは指定を受けた医療機関に所属する全医師に適用されるわけではない(※)という点です。大学病院や地域の基幹病院には多くの診療科があり、医師の勤務状況も所属する診療科によって異なります。また、同じ診療科内であっても、B水準の業務に従事する医師もいれば、Cー1・Cー2水準に該当する医師が所属している場合もあるでしょう。この適用水準は「指定される事由となった業務やプログラム等に従事する医師にのみ適用される」ため、所属する医師にそれぞれ異なる水準を適用する場合は、それぞれの水準について指定を受ける必要があるのです。
     また、連携B水準については、自院の36協定に定める時間(年960時間)と実際に働くことができる時間(1,860時間)が異なります(※)ので、各水準における特性や要件をよく確認してから準備を進めることが大切になってきます。※こちらの詳細については、厚生労働省「第11回医師の働き方改革に関する検討会参考資料」内「複数医療機関に勤務する医師に適用される時間外・休日労働の上限の考え方」「各水準の指定と適用を受ける医師について」をご参照ください。

    2)各医療機関における方針の決定

     新設される適用水準について理解をしたら、次にやるべきことは下記の3つになります。

    ①当該医療機関に所属する医師の労働時間の実態の把握
    ②A水準以外の適用水準を受けるか否かの判断
    ③どの適用水準を受けるかの決定

    ここで一つ注意していただきたいのは、医師の労働時間の実態把握については必ず最初に行うということです。
    後述の医師労働時間短縮計画の作成にも関わってくるため、今後の労働時間把握の仕組みづくりと共に、重点的に行っていかなければならないことの一つです。その上で、②におけるA水準以外の適用を受けるか否かの判断を行い、具体的な準備に入っていくこととなります。

    3)「医師労働時間短縮計画」の作成と提出(※A水準を適用する場合は努力義務)
      A水準以外の適用水準を受けると決定した場合、次に行わなければならないのは「医師労働時間短縮計画」の作成と医療機関勤務環境評価センターへの提出です。A水準以外の評価を受けるためには必須であり、提出がない場合は自動的にA水準が適用されてしまいます。そのため、指定を受ける場合は必ず作成・提出を行わなければなりません。
     下記に作成の際の留意点をあげてみましたので、参考にしていただければと思います。

    留意点
    概要
    2024年(令和6年)度以降の計画を作成する
    • 起算日:2024年(令和6年)4月1日
    • 計画期間:始期から5年を超えない範囲内で任意の日
      (※毎年要見直し)
    • 2024年度以降の見込み労働時間
    • 労働時間を短縮するための取組み計画
    提出前年度の医師の実績労働時間がベースとなる
    • 一定規模の医療機関では、タイムカードなどでの客観的
       な実労働時間の把握が必要
    • ルールや手続きの明確化
    • 副業・兼業の予定や労働時間を把握する仕組みづくり
       副業・兼業先との連携など
    医師の労働時間の計算方法
    【計算式】
    医師の労働時間=
    自院での労働時間+兼業先での労働時間(自己申告)
      ー自己研鑽時間(※)
      ー宿日直許可の対象時間
    労働時間短縮に向けた取組み
    ア タスクシフト/タスクシェア(他職種への業務移行)
    イ 医師の業務見直し

     

    ウ その他の勤務環境改善
    エ 副業・兼業の労働時間管理
    オ Cー1水準適用医師の研修の効率化
    ※エとオは対象者いない場合は不要

     なお、医師の副業・兼業先での労働時間については基本「自己申告」となっていますが、既述のとおり、この機会に副業・兼業の予定や労働時間を把握する仕組みづくりを並行して行っていくことが重要です。医師労働時間短縮計画は毎年見直しが必要となるものですので、特に表内の青文字となっている部分に関しては、規程の整備も含めて制度化しておくことが有用だと言えます。医療機関によっては医師のタイムカードの打刻が習慣化されていない場合もありますので、これを機に全職種の労働時間管理を正確に行える仕組みをしっかり整えておきたいところです。
     また、「宿日直許可」についてはあらかじめ労働基準監督署の許可が必要となります。これはいわゆる寝当直と呼ばれるもので、「常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるもの」とされています。宿日直許可の対象期間は医師の労働時間から外すことができるため、該当する宿日直がある場合は必ず労働基準監督署への申請を行うようにします。(※)自己研鑽時間については、あらかじめ労働時間該当性の明確化を行っておくことも重要です。「医師の研鑽と労働時間に関する考え方」については下記の資料をご参照ください。

    厚生労働省「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」(第12回医師の働き方改革の推進に関する検討会資料)
    厚生労働省「医師の働き方改革に関する好事例」(第7回医師の働き方改革の推進に関する検討会資料)

    4)追加的健康確保措置の準備

    適用を受ける水準によって措置が異なります。下記の表は各適用水準ごとに行う措置をまとめたものです。

    健康確保措置 概要 連携B Cー1 C-2
    連続勤務時間制限
    原則28時間まで
    勤務間インターバル
    原則9時間以上
    代償休息
    ※アとイが実施できなかった場合
    面接指導
    ・時間外・休日労働が月間100時間前
    ・原則勤務時間中に実施
    ※A水準についても100時間を超える場合は義務化

     なお、エの面接指導を実施する医師は「長時間労働の医師の面接指導に必要な知見に係る講習」を受講しなければなりません。産業医資格があっても受講が必要となります。また、医療機関の管理者が面接指導実施医師となることはできませんので、この点にも注意が必要です。

    5)その他評価のポイント

    • 36協定
    • 衛生委員会の開催
    • 産業医による面接指導
    • 健康診断
    • 労働時間管理と安全  
    • 衛生管理の措置(法的な観点)
    • 働き方改革への意識改革は進んでいるか?(研修や情報発信の仕方など)

    まとめ

     当該医療機関においてA水準以外の適用を受けると決めた場合、2023年(令和5年)度中に都道府県知事からの指定を受ける必要があります。そのため、政府は医師労働時間短縮計画の作成・提出については2022年(令和4年)度中に行うことが望ましいと呼びかけてきました。労働時間の実態の把握から評価の申請・認定までは時間を要するものですので、管理体制の仕組みづくりと共に計画的に進めていくことが大切です。
     また、A水準を適用する医療機関においても、今一度この機会に医師を含む全職員の労働時間管理を見直し、今後の医療体制の変化に対応できる制度を整えておくことは有益なことであると考えます。

     最後に、実際に適用水準を受けるにあたっては、必ず「医療機関勤務環境評価センター」ホームページにて詳細をご確認いただければと思います。評価を受ける過程でお困りのことがある場合は「医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)」に相談することも可能です。医療労務管理アドバイザーが勤務環境改善支援を行っていますので、あわせてご活用ください。  

    この記事を書いた人

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    株式会社KiteRaの中の人

    https://www.kitera.co.jp/

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