懲戒処分をするためには?弁護士が「懲戒事由を就業規則に定める際のポイント」を解説!
TMI総合法律事務所の弁護士の益原大亮、八幡将大です。
労働者が何らかの非違行為を行った場合、会社としては、企業秩序を維持するために、当該労働者に対して懲戒処分を行うことがあると思います。
もっとも、使用者(会社)が労働者に対して懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則にその根拠を定めておき、適正な手続を踏んだ上で、事案に応じて適切な懲戒処分を行う必要があり、懲戒処分を行う上での法的制約が様々存在します。
本記事では、懲戒処分について、懲戒の種別、懲戒事由、懲戒処分の手続など、その法的ルールを解説します。
1 懲戒処分の意義・目的
懲戒処分は、一般に、使用者が労働者の企業秩序違反行為に対して科する制裁罰という不利益措置を指します(最一小判平成8年9月26日労判708号31頁・山口観光事件)。
2 懲戒処分を行うための要件
使用者が労働者に対し、懲戒処分を行うためには、①あらかじめ就業規則において、いかなる場合に懲戒処分がなされるかを示す懲戒事由及びどのような種別の懲戒処分がありうるかを示す懲戒種別を定め、②その就業規則を周知する必要があります(最二小判平成15・10・10労判861号5頁・フジ興産事件)。
※労働基準法に基づく就業規則の必要記載事項としても、就業規則において懲戒処分を定めるに当たっては、その種類及び程度に関する事項を定めることが求められています(労働基準法89条9号)。
また、実際に懲戒処分を行うに際しては、③労働者の非違行為が懲戒事由に該当すること(懲戒処分の客観的合理性:労働契約法15条)、④選択した懲戒種別が、労働者の非違行為の内容、程度等を踏まえ、重きに失しないこと(社会的相当性:労働契約法15条)が必要となります。
加えて、⑤懲戒処分は、使用者の労働者に対する一方的な不利益処分なので、懲戒権の発動にあたっては適正な手続が要求されます。具体的には、就業規則等で、本人に対する弁明の機会の付与、賞罰委員会の開催、組合との事前協議等の手続規定が定められている場合には、その手続を遵守しなければならず、その手続に瑕疵があれば、その懲戒処分は無効となるおそれがあります。また、仮に就業規則等に懲戒処分の手続を定めていないとしても、弁明の機会を何ら与えない場合には、懲戒処分が無効となる場合があります。
※その他、懲戒処分については、二重処罰が禁止されており、1つの非違行為に対し2回以上の懲戒処分を行うことは認められません。
以上のとおり、懲戒処分を行うためには、大枠、①就業規則上の根拠(懲戒種別及び懲戒事由の定め)が存在すること、②就業規則(懲戒処分に関する規定)の周知、③懲戒事由該当性、④懲戒処分の相当性、⑤適性手続といった要件を満たす必要があります。
3 懲戒の種別
前記2①のとおり、懲戒処分を行うための要件として、あらかじめ就業規則において「懲戒の種別」を定めておく必要がありますが、一般的な懲戒処分の種別としては、以下のようなものがあります。
戒告 | 戒告とは、将来を戒めるのみで、始末書(反省文)の提出を伴わないものをいいます。 |
譴責 | 譴責とは、始末書(反省文)を提出させて将来を改める処分をいいます。 |
減給 | 減給とは、企業秩序違反行為に対する制裁として、本来支払われる賃金額から一定額を差し引く行為をいいます。 なお、1回の減給額(1つの事案についての減給額)は平均賃金の1日の半分を超えてはならず、また、減額の総額(一賃金支払期間に発生した複数事案に対する減給額)が、その賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとされております(労働基準法91条、昭和23年9月20日基収1789号)。 |
出勤停止 | 出勤停止とは、企業秩序違反行為に対する制裁罰として、労働契約を存続させつつ労働者の労働義務の履行を停止させることをいいます。 出勤停止の期間について、7日以内と定める例をよく見かけますが、出勤停止の上限が短いと、懲戒解雇、諭旨解雇、降格を行うほど重大ではないものの、相応に重い非違行為が行われた場合に、事案に応じた適切な懲戒処分を選択することができないこととなりますので、懲戒の幅を持たせる観点から、出勤停止の上限を長期(例えば30日以内など)に定めることも考えられます。 |
降格 | 懲戒処分としての降格とは、役職(職位)や職能資格・資格等級を引き下げることをいいます。 |
諭旨解雇 | 諭旨解雇は、使用者が労働者に退職を勧告し、労働者に退職願を提出させ、労働者が一定期日までに退職届を提出しない場合は懲戒解雇とするという処分です。 |
懲戒解雇 | 懲戒解雇は、懲戒処分としての解雇であり、懲戒処分のなかで最も重い処分です。 懲戒解雇の際は、解雇である以上、解雇予告又は解雇予告手当(解雇予告日数が足りない場合は、その分の解雇予告手当)の支給を行う必要がありますが(労働基準法20条1項本文、同2項)、労働者の責に帰すべき事由に基づくものであるため、労働基準監督署から除外認定を受けることができれば、即時解雇を行うことができます(労働基準法20条1項ただし書、同条3項)。 また、就業規則において、懲戒解雇の場合は退職金の全部又は一部が不支給とする旨を定めることで、懲戒解雇の際に退職金の全部又は一部を不支給とすることができますが、常に不支給とすることができるわけではなく、退職金の賃金後払的性格を踏まえ、労働者の従前の勤続の功労を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為がある場合に限られ(東京高判平成15年12月11日労判867号5頁・小田急電鉄事件等)、事案によって退職金の不支給の全部又は一部が認められない場合もあります(各社の退職金の設計内容とそれによる退職金の性格、各労働者の非違行為の内容・程度等によることとなります)。 |
4 懲戒事由を就業規則に定める際のポイント
前記2①のとおり、懲戒処分を行うための要件として、あらかじめ就業規則において「懲戒事由」を定めておく必要がありますが、その際のポイントは以下のとおりです。
(1)懲戒種別ごとに懲戒事由を定めるべきか
懲戒事由の定め方については、大きく分けて、①懲戒事由と懲戒種別をそれぞれ別個独立に定め、特に対応関係を定めない方法と、②懲戒解雇・諭旨解雇とそれ以外に分けて(2分類)、各分類で懲戒事由を定める方法、③懲戒事由と懲戒種別の対応関係を明確に定める方法等があります。
一般的には、上記①②の方が多い印象を受けますが、懲戒事由に該当する行為について、いかなる懲戒処分を課すかについて事案ごとに使用者が選択・決定することができ、事案に即した柔軟な対応が可能となるという点で上記③も実務的にあり得る定め方です(後記(4)の懲戒事由の記載例も、上記③を想定した記載例となっています)。
(2)形容詞・副詞の多用は避けること
懲戒事由として、例えば「著しく」、「みだりに」又は「しばしば」等の形容詞・副詞が用いられている場合には、事後的に紛争になった場合に、懲戒対象の非違行為が、これらの形容詞・副詞に該当するか自体が争点になる可能性があります。
もちろん、非違行為の悪質性、重大性、反復性等は、懲戒処分の相当性の中で考慮されることになりますが、懲戒事由として行為の程度・頻度等を特定して定めることで、その程度・頻度等を満たす非違行為であるか否かという点で争点を増やす結果になる可能性があります。
そのため、紛争回避の観点から、「著しく」、「みだりに」又は「しばしば」等の形容詞・副詞の多用は極力避けるのがポイントです。
(3)懲戒事由は幅広く網羅的に定めること
前述のとおり、懲戒事由は限定列挙と解されていますので、就業規則に定めた懲戒事由が少ないと、労働者が非違行為を行っても、それを処分するための適当な懲戒事由(懲戒処分を行うための根拠)が存在しないという結果になる可能性があります。そのため、懲戒事由は幅広く網羅的に定めることが肝要です。
※もちろん、懲戒事由としていわゆるバスケット条項(「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」)を定めるのが一般的ですが、バスケット条項は最終手段として用いるものであり、明確な懲戒処分の根拠をもって懲戒処分を行うことを担保する上では、労働者の非違行為を的確に捉えられる懲戒事由を定めておき、その懲戒事由を根拠として懲戒処分を行うことが肝要です。
(4)懲戒事由の規定例
前記(1)~(3)を踏まえ、懲戒事由の規定例を記載しました。あくまで参考例となりますので、実際に懲戒事由を定めるに際しては、各社の労務管理状況、事業内容、就業規則上の服務規律等に関する規定やその他の社内規程等を踏まえて、適切な懲戒事由を定めるようにしてください。
1 無断欠勤をしたとき。 2 正当な理由なく欠勤、遅刻、早退をしたとき。 3 本規則および会社の定める規則に違反したとき。 4 業務上の指示・命令に従わなかったとき。 5 素行不良又は社内の秩序若しくは風紀を乱したとき。 6 勤務態度不良又は職務怠慢と認められたとき。 7 故意又は過失により会社に損害を発生させたとき。 8 取引先、顧客その他関係者及び会社役員、従業員等に対し、暴行、脅迫、名誉棄損、侮辱、暴言その他これに類似する行為をなしたとき。 9 許可なく業務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。 10 会社の設備、器具、資料(電磁的記録を含む。)又は金品を紛失、破損又は使用不能の状態にしたとき。 11 業務上必要な報告又は届出を怠ったとき。 12 故意又は過失により会社に虚偽の報告、申請又は届出を行ったとき。 13 会社の内外を問わず、他の従業員に対し、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント又はマタニティハラスメントその他のハラスメント行為をしたとき。 14 会社の内外を問わず、刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行ったとき。 15 自己の業務に背任し又は背任しようとしたとき。 16 会社の金品を横領し又は横領しようとしたとき。 17 経費の不正な処理をしたとき。 18 会社の業務を通じて自己又は第三者の利益を図る行為を行ったとき。 19 重要な経歴を詐称し、その他不正な方法を用いて採用されたとき。 20 会社の内外を問わず、営業秘密その他業務に関する一切の情報(取引先の情報も含む。)を正当な目的なく又は不正な手段により、入手し、利用し若しくは外部に漏洩し、又はそれらをしようとしたとき。 21 会社の内外を問わず、取引先、顧客その他関係者及び会社役員、従業員等の個人情報を、正当な目的なく又は不正な手段により、入手し、利用し若しくは外部に漏洩し、又はそれらをしようとしたとき。 22 会社の名誉、信用を損ない、又は業務に悪影響を及ぼす行為をしたとき。 23 他人を教唆又は幇助して前各号に該当する行為をさせたとき。 24 監督者の指導又は監督が不十分であったため、部下が前各号の行為に及んだとき。 25 その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。 |
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5 懲戒処分を行う前の自宅待機命令
実務上、懲戒事由に該当する疑いのある行為を行った労働者に対して、事実調査等のため、自宅待機を命じることがあります。
労働者には就労請求権がないと解されており、また、業務命令の一環として使用者は一方的に自宅待機を命じることができますので、就業規則において自宅待機に関する規定があるか否かにかかわらず、使用者は労働者に対し、自宅待機を命じることができます。
ただし、自宅待機命令は、使用者が労働者による労務提供の受領を拒絶したという取扱いになるため、民法536条2項により、原則として有給で行う必要があります。
※なお、裁判例の中には、労働者を就労させないことについて、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなど緊急かつ合理的な理由が存する場合には、無給での自宅待機も認められるとするものもあります(名古屋地判平成3年7月22日労判608号59頁・日通名古屋製鉄作業事件)。
6 最後に
懲戒処分は、会社の秩序を維持する上では必要な対応でありますが、以上で見てきたとおり、労働者に対する制裁罰という観点から様々な法的制約があります。
人事労務に関する紛争の中でも、懲戒処分の有効性が争われる事案は極めて多いです。会社側としては「労働者に非違行為があるのだから、懲戒処分が受けて当然である」という意識が強いために、法的に懲戒処分を実施し得るのかという点の検討が甘くなりがちとなり、労働者側も懲戒処分に納得できずに懲戒処分の有効性を争う姿勢に出ることも少なくないため、結果的に紛争に発展し、かつ懲戒処分の有効性が認められるか否か微妙なラインの事案がとても多い印象です。
適切に懲戒処分を行い、もって企業秩序を維持するためには、会社としては、労働者が非違行為を行った疑いがあるとしても、安易に懲戒処分を実施するのではなく、弁護士に助言を仰ぎながら、十分な調査、検討、手続を行った上で、適切な内容での懲戒処分を実施することが重要です。