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36協定の特別条項とは?届出の手順や時間外労働の上限を徹底解説

KiteLab 編集部
2024.03.05

時間外労働・休日労働に関する協定(以下「36協定」という。)の特別条項とは、基本の法定上限残業時間(1箇月について45時間及び1年について360時間)を超えて残業させたい場合に、36協定に追加して定める条項のことです(労働基準法36条5項)。

そもそも労働時間の上限は労働基準法で定められており、法定時間外労働(残業)をさせるためには労使で36協定を締結しなければなりません。そして36協定を締結しても残業させてよい総時間には、1箇月について45時間及び1年について360時間(対象期間が3か月を超える一年単位の変形労働制を導入している場合は1箇月について42時間及び1年について320時間)という上限があります(労働基準法36条3項、4項)。

しかし、仕事というのは自社の都合だけで動けるものではありません。通常予見することのできない事情が発生し、臨時的にその上限を超えて働いてもらわねばならない場合もあるでしょう。

そんな場合に備えるためには、上記の基本上限を超えて労働させることができるとする条項、つまり特別条項を36協定に追加で締結することです。

従来、残業時間の上限は厚生労働大臣の告示による基準があるだけでしたが、大企業では2019年から、中小企業でも2020年から、罰則付きで残業時間の上限規制が適用されていますので注意してください。

今回は、36協定の特別条項の内容や届出の手順について、分かりやすく解説します。残業時間の上限規制に違反しないよう、しっかり確認していきましょう。

36協定の特別条項とは

36協定の特別条項とは、冒頭でもご紹介したとおり、従業員に労働基準法で定められている限度時間を超える法定時間外労働をさせる場合に、あらかじめ定めておかなければならない条項のことです。

ここでは、まず36協定の意味をおさらいした上で、特別条項の意味をご説明します。

36協定とは

36協定とは、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる場合に、あらかじめ労使で締結することが必要な協定のことです。労働基準法36条に基づく協定であることから、通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。

36協定は、労働組合または労働者の過半数を代表する社員と使用者との間で合意し、次のような書面を作成して労働基準監督署へ届け出る必要があります(労働基準法36条1項)。

36協定(様式第9号)

画像引用元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

36協定を届け出ても、原則として1ヶ月45時間、年間360時間という限度時間を超えて時間外労働をさせることはできません労働基準法36条3項、4項)。

特別条項とは

特別条項とは、上記の限度時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる必要がある場合に、36協定に盛り込んでおかなければならない条項のことです。

事業場によっては、通常では予見できないほど業務量が大幅に増加するような事態も想定されます。そのような場合に、あらかじめ労使で所定の事項について合意し、労働基準監督署に届け出ることにより、臨時的に限度時間を超えて労働させることを可能にするのが特別条項です(労働基準法36条5項)。

特別条項を定めるためには、限度時間を超えて労働させることができる条件や、超過する時間数の上限など所定の事項について労使で合意した内容を、次のような書面に記載します。そして、前記の36協定の書面に添えて労働基準監督署へ届け出ることが必要です。

36協定(様式第9号の2)

画像引用元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

特別条項付き36協定の届出の手順

従業員に限度時間(1ヶ月45時間、年間360時間)を超えて法定時間外労働をさせる可能性がある場合は、速やかに特別条項付き36協定を締結し、届出を行いましょう。以下では、特別条項付き36協定の届出の手順を分かりやすくご説明します。

特別条項の内容を検討

特別条項の内容は労使の協議によって定めなければなりませんが、その前提として、使用者側で素案を検討しておく必要があります。従業員にかかる負担も十分に考慮して内容を練っていきましょう。

届出内容は具体的でなければならない

届出書には、次の内容を記載しなければなりません。そのため、かなり具体的に残業の想定をしておく必要があります。特に次の4点について具体的イメージをもって決めてください。

①残業等の具体的な事由
②残業等を必要とする業務の種類
③残業等に必要な労働者の数
④1か月と1年間での残業の合計時間

この点、①について厚生労働省等が挙げている例としては、次のようなものがあります。

  • 突発的な仕様変更
  • 製品トラブル、大規模なクレームへの対応
  • 器械トラブルへの対応

「業務の都合上必要な場合」や「業務上やむを得ない場合」などの抽象的な事由では、労働基準監督署で受け付けられない可能性が高いです。仮に届出が受け付けられたとしても、単なる繁忙期など通常予見できる事由で限度時間を超える法定時間外労働をさせると、労働基準法違反として刑事罰を科せられるおそれがあります。

社長など会社の経営陣は、どの部署で何人を、どのような仕事で残業させる必要があるのかについて日常的に把握しておくことが重要です。

事業所単位で届出書が必要

会社に複数の事業所がある場合、36協定は事業所ごとに締結して届け出なければなりません。36協定では、1ヵ月と1年と、それぞれの期間で残業の合計時間数を決めますが、これも事業所単位で決めていくことになります。

このことから、残業時間が多い事業所から少ない事業所へ従業員を転勤させる場合には、当該従業員について転勤後の事業所の上限を超えてしまうケースが生じ得ます。
たとえば、ある従業員の、1年間の法定時間外労働の時間数を720時間と定めているA事業所から500時間と定めているB事業所へ年度途中に転勤させるとしましょう。この従業員が既にA事業所で600時間の時間外労働をしていた場合、A事務所のペースでの残業を続けているとB事業所での時間外労働の上限を超えてしまうのではないかということです。

この点、労働基準監督署の通達(平成30年12月28日 基発1228第15号)では、特別条項における1年間の延長時間の上限(720時間以内)は、両事業所で通算されないとしています。
つまり、年度途中で転勤した従業員が、転勤前の事業所で残業を何時間していても、転勤後の事業所では年度内に720時間まで残業させることが可能です。

一方で、上記通達では、時間外労働と休日労働の合計時間について、特別条項における1ヶ月の上限(100時間未満)(と、2~6ヶ月の平均が80時間以内という上限)については、両事業所で通算されるとしています。
つまり、月の途中で転勤した従業員が、転勤前の事業所で90時間の時間外労働や休日労働をしていた場合は、転勤後の事業所では同月内に10時間未満しか時間外労働や休日労働をさせることができません。(かつ、転勤の前後を通じて、2~6ヶ月の時間外労働および休日労働の合計時間の平均が80時間以内でなければなりません。)

したがって、従業員を転勤させる際には、その前後の勤怠をしっかりと管理し、残業や休日労働の時間数が超過しないように注意する必要があります。

労使協定

特別条項の素案が固まったら、労使の協議によって必要に応じて内容を修正し、双方の合意が得られたら協定を結びます。

36協定は、事業所ごとに、

  • 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合
  • 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者

との間で締結することとされています(労働基準法36条1項)。

「労働者の過半数を代表する者」を選出するためには、特別条項付き36協定を締結するための代表者を選出することを明らかにした上で、その事業所に所属する全従業員の中から、投票や挙手などの民主的な手続きをとる必要があります(労働基準法施行規則6条の2第2号)。

したがって、社員親睦会の幹事などを自動的に代表者とするような選出方法は認められません。自動的に代表者を選んだ場合には、使用者の意向に基づいて代表者を選出したものと判断されるからです。使用者の意向に基づいた代表者では、労使の協議に労働者側の意見を反映させる可能性が低くなってしまいます。

また、労働基準法41条2号に定められている「管理監督者」に該当する従業員を代表者にすることはできません(労働基準法施行規則6条の2第1号)。管理監督者は労務管理について経営者と一体的な立場にあるため、労使の協議に労働者側の意見を反映させることが期待できないからです。

管理監督者や、使用者の意向に基づいて代表者を選出した人を代表者とした場合は、特別条項付き36協定が無効となり、限度時間を超えて法定時間外労働をさせることはできません。もし、特別条項付き36協定が無効な状態で限度時間を超えて法定時間外労働をさせると労働基準法違反となり、刑事罰を科せられるおそれがあるので注意しましょう。

労働者側の協定当事者を適切に選出し、協議によって合意ができたら、特別条項付き36協定を書面で締結します(労働基準法36条1項)。
ただし、社内で保管する「協定書」と労働基準監督署へ提出する「届出書」を別々に作成する必要はなく、両者を兼ねた届出書を作成することもできます。その場合には、労使双方で合意したことが明らかとなるように、届出書に労使双方の署名または記名押印が必要となります。協定書と届出書を別々に作成する場合は、協定書には労使双方の署名・押印が必要ですが、届出書には記名のみで足り、署名や押印は不要です。

届出書の作成

労使で特別条項付き36協定を締結したら、届出書を作成して労働基準監督署へ提出する必要があります(労働基準法36条1項)。

特別条項付き36協定を届け出るためには、「限度時間内の時間外労働についての届出書」(特別条項のない36協定届)と「限度時間を超える時間外労働についての届出書」(特別条項がある36協定届)の2枚を作成し、一緒に提出します

各届出書は、所定の様式を用いて作成します。法改正によって残業時間の上限規制が導入されたため、2019年4月以降は新様式を用いることとされています。届出書の新様式は、こちらの厚生労働省のホームページからダウンロードできます。

参照:厚生労働省 東京労働局|時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)

様式第9号と様式第9号の2をダウンロードしていただき、先ほど「36協定の特別条項とは」でご紹介した記入例も併せてご参照いただくと、以下の解説に沿って届出書を作成しやすくなるでしょう。

様式第9号の記載事項

「限度時間内の時間外労働についての届出書」を作成する際は、様式第9号を使用します。

様式第9号に記載すべき事項は、以下のとおりです。

①時間外労働や休日労働をさせる必要のある具体的な事由
②時間外労働や休日労働をさせる必要のある業務の種類
③時間外労働や休日労働をさせる必要のある労働者の数
④有効期間(1年。例:「○○年4月1日から1年間」)
⑤「1日」(任意)「1ヶ月」「1年」のそれぞれについて、労働時間を延長して労働させることができる時間数
⑥「1年」の起算日
⑦休日労働をさせる日数(法定休日に労働させる日数)
⑧休日労働の始業・終業の時刻
⑨時間外労働と休日労働の合計が「月100時間未満」かつ「2~6ヶ月の平均が80時間以内」を満たすこと
⑩協定当事者の職名、氏名
⑪労働者の過半数を代表する者を協定当事者とした場合は、その選出方法(投票、挙手など)
⑫労働者の過半数を代表する者が、管理監督者でなく、かつ、36協定を締結することを明らかにして実施した投票、挙手等の方法で選出された者であって、使用者の意向に基づき選出された者でないこと

⑤の「労働時間を延長して労働させることができる時間数」については、月45時間以内、かつ、年360時間以内(休日労働を除く)としなければならない労働基準法36条3項、4項)ことにご注意ください。

様式第9号の2の記載事項

「限度時間を超える時間外労働についての届出書」を作成する際は、様式第9号の2を使用します。

様式第9号の2に記載すべき事項は、以下のとおりです。

①臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある具体的な事由
②臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある業務の種類
③臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある労働者の数
④1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計時間数 (100時間未満)
⑤1年の時間外労働の時間数(720時間以内)
⑥限度時間を超えることができる回数(年6回以内)
⑦時間外労働と休日労働の合計が「月100時間未満」と「2~6ヶ月の平均が80時間以内」を満たすこと
⑧限度時間を超えて労働させるための手続き(「労働者代表者に対する事前申入れ」など)
⑨限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置
⑩限度時間を超えた労働にかかる割増賃金率(25%を超えるように努めること)
⑪協定当事者の職名、氏名
⑫労働者の過半数を代表する者を協定当事者とした場合は、その選出方法(投票、挙手など)
⑬労働者の過半数を代表する者が、管理監督者でなく、かつ、36協定を締結することを明らかにして実施した投票、挙手等の方法で選出された者であって、使用者の意向に基づき選出された者でないこと

①の「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある具体的な事由」については、先ほど「特別条項の内容を検討」の「届出内容は具体的でなければならない」で解説したとおり、できる限り具体的に定める必要があります。

④~⑦に関しては、特別条項を設けても超えることができない労働時間の上限が労働基準法で定められていますので、後ほど詳しく解説します。

⑨については、限度時間を超えて労働させると労働者の健康や私生活に支障をきたすおそれがあることから、「健康及び福祉を確保するための措置」をとることが求められています。

具体的には、厚生労働省が法改正に伴い新たに策定した「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」の8条で、次の9つの中から適切なものを定めることが望ましいとされています。

  • 医師による面接指導
  • 深夜業務(22時~5時)の回数制限
  • 終業から次の始業までの休息時間(インターバル)の確保
  • 代償休日や特別休暇の付与
  • 健康診断
  • 連続休暇の取得
  • 心とからだの相談窓⼝の設置
  • 配置転換
  • 産業医等による助言・指導

就業規則の変更

労働時間や休日、賃金などに関係する事項は就業規則の記載事項とされています(労働基準法89条)。そのため、特別条項付き36協定の内容に応じて、就業規則を変更する必要があります。

就業規則を変更したら、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、「就業規則(変更)届」とともに、労働組合または労働者の過半数を代表する者から聴取した意見を記載した意見書を、労働基準監督署へ提出しなければなりません。

特別条項付き36協定(様式第9号および様式第9号の2)と一緒に、これらの書類も準備して提出するとよいでしょう。その際には、特別条項付き36協定と変更後の就業規則の効力発生日を同一の日付にしておきましょう。

労働者への周知

36協定や就業規則の内容は、労働者に対して周知する必要があります(労働基準法106条1項)。

周知する方法は、労働基準法施行規則52条の2で次のどれかによることとされています。職場の実情に応じて、適した方法を選びましょう。

  • 各作業場の見やすい場所に常時、掲示するか備え付ける
  • 書面を労働者に交付する
  • 磁気テープや磁気ディスクなどに記録した上で、労働者がその内容をいつでも確認できる機器を各作業場に設置する

労働者への周知を怠ると、特別条項付き36協定は無効となります。そのまま労働者に限度時間を超えて労働させると労働基準法違反となり、刑事罰を科せられるおそれがあるので注意しましょう。

労働基準監督署への届出

特別条項付き36協定の届出書が完成したら、労働基準監督署への届出を行います。その際には、以下の点に注意が必要です。

届出期限

36協定の提出期限は特に定められていませんが、協定で定めた効力発生日(有効期間の始期)までに届け出るようにしましょう。協定後でも届出前に限度時間を超えて労働させた場合は、労働基準法違反となってしまいます。

例えば、効力発生日を2024年4月1日と定めた場合は、同年3月31日までに提出しておくことが望ましいです。

有効期間

36協定の有効期間とは、締結した36協定が効力を有する期間のことです。

有効期間の長さに関する法律の規定は特にありませんが、対象期間(36協定の効力に基づき実際に時間外労働や休日労働をさせることが可能になる期間)が1年間と定められている(労働基準法36条2項2号)ことから、最低でも1年以上とする必要があります。

36協定の有効期間が切れれば残業させることができません。そのため有効期間を長めに設定したいところですが、そもそも対象期間が1年間ですので、いくら有効期間を長くしても1年以上にわたりその36協定を根拠に残業させることはできません。

そのため、有効期間と対象期間は全く別の概念でありながらも、期間を合わせ「1年」とするのが一般的でしょう。

有効期間の経過後も時間外労働や休日労働をさせる必要がある場合は、有効期間の満了前に改めて36協定を締結して届け出る必要があります。有効期間を1年とした場合は、1年ごとに36協定の締結・届出を繰り返すことが必要です。

届出先

36協定の届出書は、各事業所の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出する必要があります。

届出の方法としては、窓口での提出、郵送、電子申請の3種類があります。電子申請では次にご説明するメリットがありますので、利用を検討してみるとよいでしょう。

電子申請

36協定の届出は、「 e-Gov(イーガブ)」のホームページから電子申請で行うことも可能です。就業規則の変更届も電子申請で行えるので、併せて申請するとよいでしょう。

e-Govからの電子申請では、電子署名と電子証明書の添付は不要です。
また、事業場ごとに労働者代表が異なる場合であっても、電子申請なら本社で一括して届け出ることができます。以前は同一の労働者代表(各事業所の労働者の過半数で組織された労働組合)が各事業所の36協定を締結した場合でなければ本社一括届出が認められていませんでしたが、2021年3月からは事業所ごとに労働者代表が異なる場合でも電子申請に限り、本社一括届出ができるようになりました。
電子申請を利用することで、特別条項付き36協定の届出に要する事務の負担が軽減されるでしょう。

ただし、本社と各事業所とで、時間外労働や休日労働に関する協定内容や、就業規則の内容が異なる場合には電子申請でも本社一括申請が認められないので、注意しましょう。

本社一括申請をするには、全社的に協定内容や就業規則の内容を統一しておく必要があります。今、内容がバラバラである場合は、規程関連のクラウドサービスを使うなどして、効率よく統一化をはかりましょう。

特別条項付き36協定の作成で知っておこう!2つの法律

特別条項付き36協定さえ届け出れば、無制限に法定時間外労働や休日労働をさせられるわけではありません。

特別条項付き36協定を届け出た場合でも、

  • 法定時間外労働には超えられない上限規制があること
  • 安全配慮義務はなくならないこと

の2点に注意する必要があります。

残業時間には上限がある

36協定に特別条項を定める場合でも、残業時間には以下の上限規制があります。

1年間の上限は720時間以内

1年間の時間外労働の上限は720時間以内です(労働基準法36条5項前段)。

ここでいう「法定時間外労働」の時間数には、「法定休日労働」の時間数は含まれませんが、「法定外休日労働」の時間数は含まれます

「法定休日」とは、労働基準法35条1項に基づき最低週1回与えられる休日のことです。法定休日に加えて就業規則などで定められる休日のことは「法定外休日」といいます。
例えば、毎週土曜日と日曜日を休日とし、そのうち日曜日を法定休日としている会社の場合、土曜日は法定外休日となります。この場合、土曜日に労働させた時間数は「年間720時間以内」の法定時間外労働に含まれますが、日曜日に労働させた時間数は含まれません。

1ヶ月の上限は100時間未満

1ヶ月単位では、法定時間外労働と休日労働を合わせた時間数は100時間未満でなければならないとされています(労働基準法36条5項前段)。

100時間「未満」でなければならないので、時間単位で定める場合は99時間以内、分単位で定める場合は99時間59分以内が上限となります

2~6ヶ月の平均が80時間以内

36協定に特別条項を設けるかどうかにかかわらず、法定時間外労働と休日労働を合わせた時間数が2~6ヶ月の平均がすべて80時間以内となるようにしなければなりません(労働基準法36条6項3号)。

例えば、2024年4月1日から発行する特別条項付き36協定を届け出たとして、同年4月から9月までの間、ある従業員に以下のとおり法定時間外労働や休日労働をさせるとしましょう。

2024年法定時間外労働と法定休日労働を合わせた時間数
  4月 60時間                 
  5月 40時間                 
  6月 70時間                 
  7月 80時間                 
  8月 40時間                 
  9月 90時間                 

ここで、2~6ヶ月の平均を計算すると、以下のようになります。

算出期間平均時間数
2ヶ月(8~9月)65時間(130時間÷2)
3ヶ月(7~9月)70時間(210時間÷3)
4ヶ月(6~9月)70時間(280時間÷4)
5ヶ月(5~9月)64時間(320時間÷5)
6ヶ月(4~9月)63.3時間(380時間÷6)

ここまでは、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」のすべてが80時間以内となっているので、合法です。

しかし、9月に90時間の法定時間外労働・法定休日労働をしているため、10月に90時間を超える法定時間外労働・法定休日労働をさせると、9~10月の「2ヶ月平均」が80時間を超えてしまいます。そのため、10月には最大で70時間までしか法定時間外労働や休日労働をさせられないことになります。

すべての従業員について、直近の2~6ヶ月の平均がすべて80時間以内となるように、日々の勤怠管理を徹底することが大切です。

月45時間を超えるのが年6回まで

36協定に特別条項を設けても、月45時間を超えて法定時間外労働をさせることができるのは年6回までです(労働基準法36条5項後段)。限度時間を超えて労働させる月が年7回以上になると、もはや「臨時的」な取り扱いとはえいないため、このような規制がかけられています。

例えば、20204年4月1日から発行する特別条項付き36協定を届け出たとして、同年4月から9月まで毎月、45時間を超えて法定時間外労働をさせると年6回に達します。その場合、翌2025年4月になるまで、月45時間を超える法定時間外労働をさせることはできません。

安全配慮義務はなくならない

特別条項付き36協定で定めた範囲内で労働させる場合でも、使用者の安全配慮義務がなくなるわけではありません。

安全配慮義務とは、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をしなければならないという使用者の義務のことです。従業員に残業をさせるかどうかにかかわらず、使用者には常に安全配慮義務が課せられています労働契約法5条)。

長時間労働を課せば労働者の過労死や健康被害のリスクが高まることは、一般的にも知られているところです。したがって、特別条項付き36協定を届け出た場合は特に慎重に、労働者の生命や身体の安全に配慮する必要があるといえます。

具体的には、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」をできる限り厚くするのがおすすめです。それだけでなく、普段から従業員の心身の状況を見守りつつ、無理な残業はさせないように注意することが重要となるでしょう。

2024年4月から改正法が施行!36協定適用除外の業種

残業時間の上限を規制する改正法の規定は、大企業に対しては2019年4月から、中小企業に対しても2020年4月から既に適用されていますが、2024年3月現在、一部の業種に対しては、適用が猶予されています。

しかし、2024年4月1日からは猶予期間の満了により、これまで適用が猶予されていた事業・業務に対しても上限規制が適用されるようになります。ただし、全面適用というわけではなく、一部は猶予期間満了後も適用が除外される業種もあります。

以下では、主な業種について、2024年4月1日以降の取り扱いがどうなるのかをご説明します。

建設・自動車運転・医師

建設事業、自動車運転の業務、医師の業務については、これまで、改正法による残業時間の上限時間の規制は適用されていませんでした。そのため、使用者は特別条項なしの36協定の届出さえしておけば、いくら残業をさせても刑事罰を科せられることはありませんでした。

しかし、2024年4月1日以降は、以下のように上限規制が適用されるようになります。

業種2024年4月1日以降の取り扱い
建設事業      ・基本的には上限規制がすべて適用される
災害の復旧・復興の事業については、時間外労働と休日労働の合計時間数について、「月100時間未満」、「2~6ヶ月の平均が80時間以内」とする規制は適用されない
自動車運転の業務        ・特別条項付き36協定における1年間の時間外労働の上限が960時間となる
・時間外労働と休日労働の合計時間数について、「月100時間未満」、「2~6ヶ月の平均が80時間以内」とする規制は適用されない
・時間外労働が月45時間を超えることができる回数に制限は設けられない  
医師の業務            ・特別条項付き36協定における1年間の時間外労働の上限がA・B・Cの3つのレベルに分けられ、最大で1,860時間以内となる
・時間外労働と休日労働の合計時間数について、面接指導など一定の措置をとることで月100時間以上とすることも可能となる
・時間外労働と休日労働の合計時間数について、「2~6ヶ月の平均が80時間以内」とする規制は適用されない
・時間外労働が月45時間を超えることができる回数に制限は設けられない

新技術・新商品等の研究開発

新技術・新商品等の研究開発の業務に対しては、専門的・科学的な知識や技術をもつ人が従事することや、特定の時期に業務が集中しやすいなどの特殊性から残業時間の上限規制になじまないと考えられているため、2024年4月1日以降も残業時間の上限規制は適用されません。

ただし、時間外労働と休日労働の合計時間数が1ヶ月100時間を超えた労働者には、医師による面接指導を行うことが労働安全衛生法で義務付けられています(労働安全衛生法66条の8の2第1項同規則52条の7の2第1項)。この規定に違反すると、事業者に刑事罰が科せられることがあるので注意が必要です。

事業者は、面接指導を行った医師の意見を聴かなければならず、その結果、必要に応じて就業場所の変更や職務内容の変更、代替休暇の付与など、労働者の健康を保持するために必要な措置を講じることも義務付けられています(労働安全衛生法66条の8の第5項)。

特別条項付き36協定を届け出ないとどうなる?

特別条項付き36協定を届け出なければ、状況次第で刑事罰を科せられることがあります。以下で、詳しくみていきましょう。

罰則

36協定や特別条項付き36協定を届け出ないこと自体に対しては、罰則はありません。すべての会社が36協定や特別条項付き36協定を届け出るわけではないからです。

しかし、届出をしないまま労働者に残業や休日労働をさせた場合には、罰則の適用があります。

残業時間の上限規制に違反するケースには、次の2つのパターンがあります。

  • 36協定届(様式第9号)を提出せずに、残業や休日労働を少しでもさせた場合
  • 36協定届(様式9号)は提出したが、特別条項(様式第9号の2)を提出せずに、限度時間を超えて残業や休日労働をさせた場合

どちらの場合も罰則は同じで、残業や休日労働を命じた人は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法119条1号)。

なお、残業や休日労働を命じたのが支店長や工場長など事業主以外の従業者である場合には、事業主(事業主が法人の場合はその代表者)にも上記と同じ刑罰が科せられます(労働基準法121条1項)。

過去の違反分

2019年4月(中小企業では2020年4月)に残業時間の上限規制に関する改正法が施行されてから、既に数年が経過しています。その間に、うっかりと上記のような違反をしていた企業もあるのではないでしょうか。

残業時間の上限規制違反が発覚するきっかけとしては、長時間労働を課せられた従業員が労働基準監督署に通報するケースが大半です。その他に、仕事中や通勤中に怪我・病気をした従業員が労災保険の申請をしたところ、その審査の過程で違法な長時間労働が発覚するケースもあります。

上限規制違反が発覚した場合、まず労働基準監督署から是正勧告を受けます。内容としては「法定時間外労働を減らすこと」、36協定が未届の場合は「36協定を提出すること」などです。
是正勧告に従わない場合や違反が悪質な場合には、上記のとおり罰則が適用されます。

労働基準監督署や捜査機関に発覚されなければ、事実上は罰則の適用を受けることはありません。ただし、従業員に違法な長時間労働を課し続けていると、やがて発覚する可能性は高いと考えるべきです。

罰則の適用を回避するためにも今一度、従業員の勤怠管理を徹底して見直し、必要があれば新たに36協定や特別条項付き36協定を締結して正しく届け出るようにしましょう。

まとめ

従業員に1ヶ月45時間、年間360時間を超えて残業や休日労働をさせるためには、特別条項付き36協定を締結して届け出る必要があります。

届け出ないまま長時間労働を強いると、労働基準監督署による監督指導や、刑事罰を受けることにもなりかねません。それ以前に、従業員の健康を害するおそれがあることに注意が必要です。

まずは各従業員の勤怠をしっかりと管理した上で、特別条項の内容を適切に検討し、所定の手続きを踏んで特別条項付き36協定を届け出るようにしましょう。

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KiteLab 編集部
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