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労働安全衛生法上の産業医の役割とは

KiteLab 編集部
2023.05.31

はじめに

現在の日本で問題点となっている1つに、少子高齢化の進展による生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少が、今後ますます進行していくことが確実視されている点が挙げられています。

そのような状況下で、今まで以上に従業員の健康管理に力を入れて取り組むことが経営者や人事労務担当者の方に求められています。従業員を対象に健康の保持増進を促し、企業内の生産性向上や人材獲得に結び付けることに成功し、また未来の企業価値を高める狙いもそこにはあります。

ではどのように従業員の健康管理に力を入れて取り組んでいけばいいのか?

それは、身近にいる産業医を積極的に活用することが重要です。 産業医については、労働安全衛生法という法律の中で各種ルール付けされており、従業員の健康管理の履行について企業に求めています。

本記事を通じて、労働安全衛生法上の産業医の役割に関連する情報を収集、従業員の健康管理にお役立て頂けると幸いです。

1.労働安全衛生法とは

従業員を雇用した場合、企業側に遵守が求められる法律(ルール)が各種存在しますが、その代表的なものが、労働基準法です。

その「労働基準法」から分かれて誕生したものが「労働安全衛生法」になります。

*労働基準法(第1条参照) 労働者(従業員)が人間らしく生きるため、労働基準法に労働条件の最低基準を定めて、最低基準を使用者(経営者)に守らせることで、労働者(従業員)を保護していくことが目的の法律。目的達成のため、労働条件全般にわたり各種ルール付けされている。 *労働安全衛生法(第1条参照) 労働条件の中でも安全衛生に関する事項の最低基準を定めて、その最低基準を使用者(経営者)に守らせること、さらに最低基準を上回る範囲(快適な職場環境の形成)を促進させることで労働者(従業員)を保護していくことが目的の法律。目的達成のために安全衛生部分に特化した形で各種ルール付けされている。

2.安全衛生管理体制とは

企業における安全衛生を確保するため、労働安全衛生法においては、一定の(業種や規模等に応じた形での)事業場(イメージ:事業所)の企業について、安全衛生管理体制の組織作りを義務付けています。

3.労働安全衛生法上の産業医について

(1)産業医とは

医学に関するプロという立場から、職場における従業員の健康管理を担っている医師のことをいいます。

労働安全衛生法では、事業場単位で見て、常時50人以上の従業員を使用する全ての事業場(業種不問)で「産業医」を選任することになっています。

産業医の仕事内容を大きく見ると、以下の2点です。

  1. 従業員の健康管理全般や就業(作業)環境に対する指導、問題提起、アドバイス
  2. 就業制限の有無や就労可否の判断

*治療行為は行わず、働けるかどうかを判断するイメージ

(2)産業医の具体的な職務とは

職場における「従業員の健康管理」の担い手という役割を果たすため、「産業医」にはどのような職務があるのか?。

労働安全衛生規則第14条に記載されている内容のうち、主なものを確認します。 ※労働安全衛生規則 労働安全衛生法に記載されている内容がより有効なルールとなるように、法律本体よりも少々細かいルールが定められているイメージです。

①健康診断の実施と実施後のフォロー

企業の年1回の定期健康診断を実施している医療機関の医師が、その企業の産業医に選任されているケースがある。従業員の健康状態に関するデータを保有しているため、指導、問題提起、アドバイスを行いやすい。休職が必要と判断した従業員に対して適切かつ迅速に意見書を作成すること等も可能

②長時間労働者に対する面接指導と面接後のフォロー

一般に残業時間や休日出勤が多く疲労の蓄積が認められる(疲労の蓄積が認められると判断できるケースは、は1か月における時間外・休日労働時間数*80時間を超えた場合)かつ本人からの希望を前提に、産業医は面接指導を実施します。

面接を通じて、産業医による勤務の状況・疲労の蓄積状況・その他の心身の状況を確認し、長時間労働との関連性が強いとされる過労死等(脳・心臓疾患、精神障害、これらに起因する死亡・自殺)を予防します。 *時間外・休日労働時間数=(所定労働時間数+所定外労働時間数)ー(1か月の暦日日数/7)×40

③ストレスチェックの実施と実施後のフォロー

業務自体や就業(作業)環境にストレスや不安を抱えている従業員の増加により、うつ病をはじめとする精神疾患による労災認定が増加傾向にあります。ストレスチェックの実施を通して、産業医の意見(作業に関するアドバイス等)を参考に、従業員に対する適切な措置を行うことで、就業(作業)環境の改善につなげることが可能になります。

④企業に対し、労働者の健康管理について必要な勧告を行う

産業医は企業内に設置されている衛生委員会のメンバーであり、委員会への出席は義務はりませんが、出席した上で指導、問題提起、アドバイスを行うことが望ましいです。

例えばインフルエンザが地域的に流行のきざしが見えた場合、予防接種の奨励やうがい、手洗いの徹底を進めるようにとアドバイスを行っていきます。

⑤健康教育の実施

産業医が、職場において健康管理をテーマに、従業員向けに研修を行います。

うつ病にかからないための予防法、より良い睡眠を得るためのポイント等について情報提供を行っていきます。

4.まとめ

近年、働き過ぎによる健康障害の防止やメンタルヘルス対策の重要性が増加したことで、産業医に求められる役割も変化し、対応すべき範囲・業務も増加しています。

労働安全衛生規則も、産業医がその職務をより効率的かつ効果的に実施できるよう、近年見直しが行われてきました。例えば条件付きながら、産業医の作業場巡視頻度を毎月1回以上から2か月に1回にすることが可能になりました。

今後も状況の変化に応じて、法律の改正が行われていくと思われますので、常に意識を持って情報収集を行っていくとともに、単にコンプライアンス上の要請からの産業医を活用した従業員の健康管理を行っていくという観点よりも、人口減少下であっても、人材活用面・人材獲得面に優位性を持つことで企業が成長していくイメージを描いて、産業医を活用したより積極的な従業員の健康管理を行って頂きたいと切に願っている次第です。

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