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労務担当者が知っておきたい、従業員数50人以上になったときに行うべきこと

KiteLab 編集部
2023.12.25

会社が成長していくにつれて従業員数も次第に増えていきます。そして、従業員数が50人以上になったタイミングが大きな節目となり、労働安全衛生法に基づく新たな義務が数多く発生します。

本記事では、従業員数が50人以上になったときに発生する義務の内容と、そのとき労務担当者は何に気を付けてどのように取り組めば良いのかを解説していきます。

50人という人数の数え方

50人という人数に含めるのは正社員だけではありません。パートタイマーや日雇いの方も含めて、常態として業務に従事している従業員の人数でカウントします。

ここで注意が必要なのは、派遣スタッフのカウントの仕方です。この後解説する「衛生管理者」、「衛生委員会」、「産業医」については、派遣スタッフは派遣先と派遣元の両方でカウントします。一方で「安全管理者」、「安全委員会」については派遣先のみでカウントします。

なお、50人という人数は会社全体ではなく、事業場(場所)単位でカウントします。そのため、50人以上の事業場が複数あるような場合には、それぞれの事業場で法律上の義務に基づく措置が必要となります。

衛生管理者の選任義務

従業員の健康や就業環境の改善などを管理するために、事業場に専属の衛生管理者を選任することが必要です。「専属」とはその事業場だけを担当するという意味で、1人が複数の事業場の衛生管理者になることはできません。手続きとしては、50人以上になった日から14日以内に衛生管理者を選任し、選任したら遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出する流れになります。

衛生管理者の仕事は、労働災害を防止するための衛生に関する管理です。具体的には、週1回以上の頻度で作業場所を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に問題があるような場合には、その原因の調査や改善、再発防止に向けた措置などを行うことが求められます。そのためには一定の専門的知識が必要となるため、衛生管理者(第1種・第2種)、衛生工学衛生管理者、労働衛生コンサルタントなどの免許や資格を持っている人でないと選任できないことになっています。

衛生管理者の選任に向けて、あらかじめ適任者の選定(資格取得を含む)しておくとともに、選任や報告書の提出などの手続きを円滑に行えるように準備しておきましょう。

産業医の選任義務

従業員の健康診断の実施、健康障害の原因の調査や再発防止といった健康管理を効果的に行うために、産業医を選任する必要があります。50人以上になったばかりの事業場であれば専属や専任といった要件は課されませんが、一定以上の大規模事業場の場合は、その事業場に専属の産業医を選任することが必要になります。手続きとしては、50人以上になった日から14日以内に産業医を選任し、選任したら遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出する流れになります。

産業医の仕事は、月1回以上(一定の場合は2か月に1回)の頻度での作業場所の巡視、健康診断やストレスチェックの実施とその結果に基づく健康保持のための措置、長時間労働者や高ストレス者への面接指導とその結果に基づく措置などを行うことです。産業医学に関する専門的知識が必要となるため、医師免許を持っていることに加えて、産業医科大学などが行う研修修了者や、産業医の養成過程を設けている産業医科大学などの卒業者といった要件を満たさないと産業医になることができないことになっています。

また、産業医は産業医学の専門的立場から一定の独立性、中立性をもって仕事を行う役割を担います。そのために法律によって、会社には産業医に対して従業員の労働時間や健康診断結果などの情報を提供する義務、従業員に対して産業医の業務内容、健康相談の申出方法などの事項を周知する義務が課されてるとともに、産業医には会社に対して是正等の勧告を行う権限が付与されています。

産業医を選任するにあたって、まずは選任や報告書の提出といった手続きを円滑に行えるように準備することが大切です。そのうえで、産業医との連携体制を構築したり、産業医が活動しやすいように環境を整備したりといったことに取り組んでいきましょう。

安全管理者の選任義務

建設業や運送業といった一定の業種については、危険防止に関する措置を管理するために、その事業場に専属の安全管理者を選任する必要があります。手続きとしては、50人以上になった日から14日以内に衛生管理者を選任し、選任したら遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出する流れになります。

安全管理者の仕事は、従業員の安全を確保するために作業場所を巡視し(法律では頻度は定められていませんが、衛生管理者と同様に週1回以上の頻度が望ましいです)、建物や設備、作業方法などに危険があれば応急処置や危険防止に向けた措置などを行うことです。衛生管理者や産業医と同じく、安全管理者の仕事内容にも一定の専門的知識が必要になります。そのため、理系学科の卒業者で一定の実務経験を持っている、もしくは労働安全コンサルタントの資格を持っているといった要件を満たす人でないと、安全管理者に専任できないことになっています。

安全管理者の選任に向けて、あらかじめ適任者を選定(資格取得を含む)しておくとともに、選任や報告書の提出などの手続きを円滑に行えるように準備しておきましょう。

衛生委員会及び安全委員会の設置義務

従業員数50人以上の事業場では、衛生委員会という会議体を設置することが必要になります。また、建設業や運送業といった一定の業種については、衛生委員会に加えて安全委員会も設置しなければなりません。なお、衛生委員会と安全委員会を1つにまとめて、安全衛生委員会というとして会議体を設置することも認められています。

それぞれの会議体では何を話し合うのでしょうか。まず、衛生委員会では従業員の健康に関すること、具体的には健康診断の実施状況や長時間労働者などの報告、健康障害を防止するための対策といった内容を話し合います。産業医の出席は必須ではありませんが、産業医の欠席が常態化してしまうのは良い状態とは言えません。産業医にも可能な限り毎回出席してもらい、もし難しい場合には議事録を共有して意見や助言を求めるといった運用を行うことが望ましいでしょう。また、安全委員会では労働者の安全に関すること、具体的には職場の危険防止に関する報告や、事故等による労働災害の原因や再発防止といった内容を話し合います。

衛生委員会と安全委員会は、最低でも月1回の頻度で開催する必要があります。そして、それぞれの会議を開催した後は、議事録の作成、議事概要の従業員への周知、議事録の開催後3年間の保存といったことも義務付けられています。

衛生委員会と安全委員会の開催に向けて、月1回の頻度で会議を確実に開催できるように必要な出席者の日程や場所をあらかじめ押さえるとともに、議事録のひな形を整備したり、議事概要の周知方法や議事録の保存方法を決めたりといった運用ルールを検討していきましょう。

定期健康診断結果の報告義務

従業員数が50人以上になると、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務が発生します。具体的な手続きとしては、定期健康診断結果報告書という書類を作成し、労働基準監督署に提出する流れになります。

従業員数50人以上で報告義務が発生するのは定期健康診断と特定業務従事者健康診断です。定期健康診断とは1年に1回実施する一般的な健康診断のこと、特定業務従事者健康診断とは深夜業など一定の有害な業務に従事する従業員を対象に半年に1回実施する健康診断のことです。雇入れ時や配置転換時の健康診断については報告義務はなく、半年または1年に1回定期的に実施する健康診断のみが報告対象となります。

なお、報告書の提出期限は法律上は「遅滞なく」とされています。すなわち、定期健康診断だけを実施する事業場についてはその年の定期健康診断が終わった後の年1回、定期健康診断と特定業務従事者健康診断の両方を実施する事業場についてはそれぞれの健康診断が終わった後の年2回(うち1回は定期健康診断と特定業務従事者健康診断をまとめて報告)の頻度で労働基準監督署に報告書を提出することになります。

これらのことを踏まえて、健康診断結果のとりまとめから労働基準監督署への報告書の提出までの年間スケジュールをあらかじめ定めておき、スケジュールに沿って報告書の作成と提出を行えるよう準備しましょう。

ストレスチェックの実施義務

ストレスチェックとは、従業員のストレスの状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐために実施する調査です。ストレスに関する質問票を従業員に配布し、従業員が回答するという流れで調査を行います。従業員数50人以上の場合、このストレスチェックを1年に1回実施することが必要になります。ストレスチェック結果については、労働基準監督署への報告義務はありません。ただし、結果を従業員本人に通知し、必要に応じて医師による面接指導を実施することが必要となります。

まずはストレスチェックをどのような方法(紙やWeb、外部サービスの利用有無など)で行うかを検討し、そのうえで実施のスケジュールや結果の保管方法といった運用を検討していきましょう。特に保管方法については、本人またはストレスチェック実施者以外の人が閲覧できないようなセキュリティの確保を含めて検討する必要があります。

休養室・休養所の設置

従業員数50人以上または女性従業員数30人以上の事業場には、従業員が横になって寝られる休養室・休養所を男女別に設置する義務が課されています。男女別に個室を設けることまでは必要なく、パーティションなどでスペースが男女別に区切られていれば問題ありません。また、入り口や通路から直視されないように目隠しを設ける、関係者以外の立ち入りを制限するといった方法でプライバシーを確保することも必要となります。

現在の施設の状況を踏まえて、無理のない範囲で休養室・休養所を設置する方法を検討していきましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。従業員数が50人以上になると、労働安全衛生法に基づき様々な義務が発生します。これらの義務に対応するには相応の時間が必要になるため、従業員数が50人以上になってから検討を開始するのでなく、50人に近くなり始めた段階で検討を開始するのが望ましいと言えます。

従業員数が増えるにつれてどのような義務が発生するのかの概要を把握しておき、従業員数の増加傾向を見ながら少しずつ準備を開始するようにしましょう。

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