税金・社会保険の『収入の壁』について

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KiteLab 編集部

1.はじめに

 2023年初頭に岸田政権が掲げた「異次元の少子化対策」という言葉をお聞きになったことのある方も多いかと思います。

 この対策は大きく下記3つの基本理念に分けられます。

 (1)若い世代の所得を増やす
 (2)社会全体の構造や意識を変える
 (3)全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する

 このうち、(1)について岸田総理は2023年3月17日に行われた記者会見でも

「いわゆる106万円、130万円の壁によって、働く時間を希望どおり延ばすことをためらう方がおられると、結果として世帯の所得が増えません。こうした壁を意識せず働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに取り組みます。加えて、106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせない取組の支援などをまず導入し、さらに、制度の見直しに取り組みます。」

と発言されていました。

参考URL:https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0317kaiken.html

 上記のことからも、今後何かと話題に出る機会が増えることが予想される『収入の壁』について見ていきたいと思います。

2.『収入の壁』の種類

 一般的にいう『収入の壁』とは大きく分けて下記4種類があります。
ただし、一口に”壁”といっても、まずは税金と社会保険で区分して理解する必要があります。

金額* 区分 収入判定期間 対象収入 金額を超えた場合
(1)103万円 税金


 暦年
(1~12月)

非課税所得を除く(通勤手当など) 本人に所得税が発生

(2)106万円
*月額8.8万円

社会保険 月額で超えるかどうか

下記手当を除く

割増賃金
精皆勤手当
家族手当
通勤手当

短時間労働者(週20~30時間労働)も社会保険に加入
※人数要件を満たす企業に勤務している場合


(3)130万円
*月額10.8万円

社会保険 月額で超えるかどうか 原則として全ての手当を含む 社会保険の被扶養者から外れる
(4)150万円 税金 暦年
(1~12月)
非課税所得を除く(通勤手当など) 配偶者特別控除が逓減する
※その結果、配偶者の所得税が高くなる

*給与以外の収入がない前提の金額です。

(1)103万円の壁(税金

 この金額は暦年(1月から12月まで)の収入で判断します。また、通勤手当は非課税のためここでいう収入には含まれません。(一部例外除く)
 なお、103万円までは非課税となる根拠は『給与所得控除55万円 + 基礎控除48万円の合計が103万円』となるためです。
 言い換えると、年間給与収入が103万円を超えると課税所得が発生する結果、所得税の納付が必要とも言えます。
 なお、上記表には記載していませんが、住民税は年間給与収入が100万円を超えると納付の義務が発生します。

(2)106万円の壁(社会保険

 よく『年間106万円の壁』という表現を目にしますが、正確には『月額8万8千円の壁』です。106万円と呼ばれる理由は月額8.8万円×12カ月=年間約106万円となるためです。
 なお、この壁は暦年ではなく月額ベースで基準額を超えるかどうかで判定されますが、給与額以外にも要件があり、下記(ⅰ)~(ⅴ)の全てを満たした場合に社会保険の加入義務が発生します。

(ⅰ)従業員数が101人*以上の企業に勤めている
※従業員数とは全労働者ではなく『現在の社会保険適用対象者数』
(ⅱ)週の所定労働時間が20時間以上である
(ⅲ)月額賃金が8.8万円以上である
(ⅳ)2カ月を超える雇用の見込みがある
(ⅴ)学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)
*2024年10月以降は51人

なお、月額8.8万円の収入対象から割増賃金や精皆勤手当、家族手当、通勤手当などは除かれる点も注意が必要です。
参考URL:https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.files/jigyounusiri-huretto.pdf#page=4

(3)130万円の壁(社会保険

 こちらもよく『年間130万円の壁』という表現を目にしますが、正確には『月額10万8,333円*』の壁です。 *年間130万円 ÷ 12カ月
 そして、上記(2)と同様に1月から12月という暦年単位ではなく、あくまで月額ベースで基準額を超えるかどうかで判定されます。ただし(2)とは異なり、割増賃金や通勤手当などを含む全ての手当が含まれる点は注意が必要です。

そして、130万円の壁を超えた場合は親族などの扶養に入ることはできないため、

  • 自らが社会保険に加入するような働き方をする
  • 国民健康保険に加入

のどちらかに該当することとなります。
日本は国民皆保険のため、扶養を外れた後に「保険料を負担したくないから何も加入しない」という選択肢はありません。

(4)150万円の壁(税金

 この金額は上記(1)と同様に暦年単位での年間給与収入で判断します。また、150万円を超えると『配偶者特別控除がいきなり適用外』となる訳ではなく、控除額が逓減していき、201万円を超えると配偶者の配偶者特別控除がなくなります。
 なお、配偶者の合計所得金額が1,000万円以上の場合、そもそも配偶者控除および配偶者特別控除の適用がないため、元々150万円の壁を気にする必要はありません。

3.壁を超えた場合の影響は?

 これについては『税金』と『社会保険』に分けて考える必要があります。

『税金』の場合
103万円の壁を超える・・・本人に所得税が発生
150万円の壁を超える・・・配偶者の所得税が増える
というのは前述のとおりです。

 ただし壁の額を超えたとしても、その超過額に応じて課税額される(控除額が変わる)ので、壁を少し超えたぐらいの金額であれば大きな負担増とはなりません。

 一方、『社会保険』の場合
106万円の壁を超える・・・本人が社会保険に加入 ※収入以外の要件もあり
130万円の壁を超える・・・親族などの扶養に入れなくなる
というのは前述のとおりです。

 税金とは異なり、壁を超過すると自ら社会保険に加入する(親族の扶養から外れる)ことになるため、税金と比べると壁を超過した場合の負担増は大きくなります。

 なお、社会保険に加入することにより生じる社会保険料の目安は下記のとおりです。

 

年金保険料(月額)の目安

年間給与 120万円 150万円 200万円 250万円 300万円
保険料額 9,000円 11,600円 15,600円 18,300円 23,800円

(参照)https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/pdf/guidebook_hihokensha_a4.pdf#page=8

4.壁を超える(社会保険に加入する)ことによるメリット

 ご自身が社会保険に加入すれば、保険料納付による負担増になるのは上述のとおりですが、一方で一定年齢以上になると受給できる厚生年金の金額は増えます。

 厚生年金の増加額(目安)は下記表にて確認できます。

増える報酬比例部分の年金額(月額)の目安

  年間給与
120万円 150万円 200万円 250万円 300万円
加入期間1年 500円 600円 800円 1,000円 1,300円
加入期間5年 2,500円 3,200円 4,300円 5,100円 6,600円
加入期間10年 5,000円 6,400円 8,700円 10,200円 13,300円
加入期間15年 7,500円 9,600円 13,000円 15,300円 20,000円
加入期間20年 10,000円 12,900円 17,400円 20,500円 26,600円
加入期間25年 12,500円 16,100円 21,800円 25,600円 33,300円
加入期間30年 15,000円 19,300円 26,100円 30,700円 40,000円

(参照)https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/pdf/guidebook_hihokensha_a4.pdf #page=8

厚生年金の受給額は
『平均標準報酬月額 × 0.5481% × 厚生年金被保険者期間』
で算出されます。

厚生労働省作成パンフ(上記表)の左上の枠に当てはめてみると
(120万円 ÷ 12カ月)×0.5481% =548円 ≒ 500円*
として算出されています。
*上記表は月額表記のため、被保険者期間は乗じていません

また、上記のほかにも社会保険(健康保険)の被保険者となることにより、私傷病で4日以上休業する場合には『傷病手当金』も受給できるようになります。そのため、もし入通院に備えて医療保険に加入している場合は保障内容を見直す(生命保険料を削減する)余地が生まれるかも知れません。

参考URL:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/event/kohoshizai/47_sogo_syoute.pdf

5.最後に

 労働力人口が今後ますます減少していくことが見込まれる日本において『収入の壁』があることにより貴重な労働力を労働者自らがセーブしてしまうというのは本末転倒と言わざるを得ません。

併せて
■第3号被保険者制度の見直し
■短時間労働者の社会保険適用にあたり従業員数要件の撤廃
なども今後議論が活発化していくことが予想されるため、今後の動向に注視していく必要があります。

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