労基法第32条の法違反の様態
1.労働基準監督署による指導件数等
令和2年度労働基準監督官年報より、令和2年度における労働基準監督署による指導件数は14万件を超えていることが確認できます。そのうち、何らかの法違反があるとして、指導にいたった事業場の件数は、約10万件でした。定期監督における違反状況等をみると、労働基準法(以下「労基法」という。)第32条違反として指導された事業場件数は2万件に及んでいます。本条については、「法違反の様態」により大きく3つのパターンに分類することができます。本記事では、これらの3パターンについてご紹介します。
2.労基法第32条の法違反の様態
労基法第32条第1項・第2項における法違反の様態は大きく3つに分類できます。
労基法第32条第1項・第2項における法違反の様態
- 36協定を締結・届出をすることなく時間外労働させているもの
- 36協定で定めた延長時間を超えて労働させているもの
- 特別条項を適正に発動していないもの
労基法第32条第1項・第2項における法違反の様態
①36協定を締結・届出をすることなく時間外労働させているもの
多くの事業場では、36協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届出がされていることでしょう。しかしながら、中小企業の一部では、使用者が36協定を知らず、36協定を締結・届出をしていないケース、又は、36協定の有効期間が過ぎているにも関わらず、新たな36協定の届出をしていないケース等が見受けられます。
また、介護事業場や小売店等のように、比較的小規模な事業場を多く抱えている法人においては、使用者が「事業場」の概念を知らず、本社や一部の事業場についてのみ、36協定を締結・届出をしていないまま、時間外労働をさせているケースも散見されます。
そのため、事業場の概念を整理するとともに、事業場ごとに36協定が締結・届出がされているかを再度確認する必要があります。
②36協定で定めた延長時間を超えて労働させているもの
使用者は労働者に法定労働時間を超えて働かせる際には、36協定で定めた延長時間の範囲でのみ、働かせることができます。しかしながら、労働時間の管理が不十分なため、36協定で締結した「1日」、「1月」、「1年」の延長時間を超えて働かせるケースがあります。そのような場合においては、労基法第32条違反として是正勧告の対象となり得ます。
③特別条項を適切に発動していないもの
労基法第36条第4項により、36協定を締結する際、延長して労働させることができる時間は、原則的に1か月45時間、年間360時間とされています(限度時間)。ただし、同上第5項より、特別の事情がある場合いにおいては、単月で100時間未満、1年で720時を超えない範囲で、限度時間を超えて延長することができる時間数を締結できます(いわゆる、「特別条項付き36協定」)。
限度時間を超えて、時間外労働をさせる際には、事前に、特別条項付き36協定で締結した、「特別条項の発動手続き」にのっとって、発動手続きをとる必要があるものの、当該発動手続きをとらないまま、限度時間を超えて働かせているケースが見受けられます。
この場合は、労基法第32条違反にかかる是正勧告書のみならず、「特別条項付き36協定の不適正な運用」について、指導票が交付される場合があります。当該指導票が交付されると、監督署より、通常の是正報告に加えて改善報告等も求められます。
3.まとめ
以上が労基法第32条第1項・第2項の法違反の様態でした。労働時間の管理が疎かになると、法違反を誘発することとなり、行政指導の対象となり得ますので、十分な注意と対策が必要です。