最低賃金の改定(2025年)のポイントと実務の注意点を解説!

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玉上 信明
玉上 信明

この記事でわかること

  • 最低賃金の対象となる賃金の範囲と、正しい計算方法
  • 違反した場合の企業リスクと、必要となる就業規則の見直しポイント
  • 2025年改定の影響と、人件費増に備えた助成金などの活用策

社会保険労務士の玉上 信明(たまがみ のぶあき)です。

都道府県別の「地域別最低賃金」については、毎年、国の中央最低賃金審議会が目安を示し、都道府県ごとの最低賃金審議会で決定されます。

2025年は 全国加重平均は1,118円(前年比+63円/+6.0%)と過去最大の引き上げ幅が示されました。
今後、各都道府県で審議・決定のうえ、10月以降順次適用される予定です。目安どおりに引き上げられると全都道府県で1,000円を超えることになります。既に一部の県で決定されたところも出てきています。

この記事では、最低賃金制度の概要をわかりやすく説明します。その上で、特に今回の大幅な引き上げの影響や実務の対応について解説します。

最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。

つまり、ボーナスは対象外です。さらに、毎月の基本的な賃金という趣旨から、実際に支払われる賃金から一部の賃金(時間外休日深夜等の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)を除いたものが対象となります。

これについては、法第4条、同施行規則第1条等に定めがありますが、詳細は「最低賃金の計算方法」にてご説明します。

最低賃金の計算方法

支払われる賃金が最低賃金額以上かどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。

厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」に基づいてご説明します。

(1) 時間給制の場合

時間給≧最低賃金額(時間額)

(2) 日給制の場合

日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

※日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、日給≧最低賃金額(日額)

(3) 月給制の場合

月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。

(5) 上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合

例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

下記では、厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」から2つのケースを参考にし、具体的に計算してみます。

月給制の場合の換算方法

基本給 150,000円
職務手当 30,000円
通勤手当 5,000円
時間外手当 35,000円
合計 220,000円

労働時間/日 8時間
年間労働日数 250日
県の最低賃金 1000円

○○県で働く労働者Aさんは、月給で、基本給が月150,000円、職務手当が月30,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されます。「職務手当」は、担当する職務に応じて支給され、時間外労働有無にかかわらず定額が支払われるものになります。
当月は、時間外手当が35,000円支給され、合計が220,000円でした。
Aさんの会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は8時間で、○○県の最低賃金は時間額1,015円です。

最低賃金額以上かどうか確認する手順

Aさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。

(1)Aさんの賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。
除外される賃金は通勤手当、時間外手当です。職務手当は除外されません。

220,000円-(5,000円+35,000円)=180,000円

(2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較します。

(180,000円×12か月)÷(250日×8時間)=1,080円>1,015円

結果、上記のケースは、最低賃金額を「上回っている」となっています。

歩合給制の場合の換算方法

歩合給 168,000円
時間外割増賃金 6,300円
深夜割増賃金 3,150円
総支給額 177,450円

月間総労働時間 200時間
所定労働時間 170時間

(1年間における1ヶ月平均所定労働時間)
時間外労働時間 30時間
深夜労働時間 15時間

□□県のタクシー会社で働く労働者Cさんは、あるM月の総支給額が177,450円、そのうち、歩合給が168,000円、時間外割増賃金が6,300円、深夜割増賃金が3,150円でした。
Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。□□県の最低賃金は、時間額1015円です。

最低賃金額以上かどうか確認する手順

(1) Cさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。
除外される賃金は、時間外割増賃金、深夜割増賃金です。

177,450円-(6,300円+3,150円)=168,000円

(2) この金額を月間総労働時間数で除し時間額に換算し、最低賃金額と比較。

168,000円÷200時間=840円<1015円

結果、上記のケースは最低賃金額を下回っている」、となります。

厚生労働省の「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」では、その他様々なケースでの計算例が示されていますので、ご確認ください。

最低賃金に違反したらどうなるか

最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分については無効になります。無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(法第4条2項)(「強行的・直立的効力」と言われる効力です)。

労働基準監督署などによる行政監督や、刑事罰等の定めもあります(法第31条以下、39条以下)。

最低賃金改定(2025年)の影響や対応

2025年の最低賃金改定は昨年2024年以上の大幅なものでした。企業側にどのような影響が生じるのか、どのように対応するのか考えてみましょう。

(1)就業規則の改定

現在の賃金テーブルを確認し、最低賃金を下回る場合には、速やかにテーブルを改定する必要があります。個々の従業員との労働契約書(雇用契約書)も見直して、契約を締結し直すか、変更合意書を取りつける、といったことが必要です。

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(2)人件費の増加・企業利益減少

現在、最低賃金に近い賃金で働いている人にとっては、賃上げにつながります。

人材確保に資するでしょう。とはいえ、収益力に乏しい中小企業等にとっては、大きな負担増になりかねません。時給が全国平均で63円アップということは月換算で10,000円以上の賃上げです。社会保険料も増加します。

価格転嫁や生産性向上などが順調に進まなければ、企業利益が減少します。

飲食業や小売店等、人件費負担がもともと高く、しかもパートアルバイト等最低賃金近い水準の賃金で働く労働者が多い業種でこそ、大きな影響が出ます。 また、地域別にもこれまで最低賃金が低かった県で、国の目安を越えて大幅に引き上げられることも予想されます。比較的景況の苦しい地域に大きな影響が出ることになります。

(3)雇用の縮小・働き控えの動きも

このため、企業によっては雇用の縮小を考えざるを得ない場合も出てくるでしょう。

それも最低賃金に近い賃金で働いていた人を削減して、その分を正規労働者に肩代わりさせる、といった対応をする企業もあるかもしれません。

それに加えて「年収の壁」の問題から労働者側で働きを控える人がでてくる可能性も十分にあります。時給アップにより、従来の労働時間では年収の壁を超えるので、労働時間を減らそうという対応です。 2024年10月から社会保険の適用拡大も行われており、これと相まって、年収の壁問題に直面する労働者もいるでしょう。

(4)国の支援策等

対応として、国の支援策の活用も考えるべきです。二つご紹介します。

1業務改善助成金

中小企業・小規模事業者等が、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。

申請締切は申請事業場に適用される地域別最低賃金改定日の前日までです。10月初めと考えておくべきでしょう。検討される方は早急に対応が必要です。

2キャリアアップ助成金

賃金規定等を改定し、非正規雇用労働者の基本給を 3%以上賃上げする場合等に、キャリアアップ助成金の 「賃金規定等改定コース」が利用できます。中小企業等の場合、賃上げの率に応じて対象者1人当たり4万円から7万円等の助成が得られます。

※(追記)2025年9月8日時点で、最低賃金は全都道府県で初の時給1000円超となりました。
※(追記)下記は令和7年度地域別最低賃金額改定の目安についてなどを参考にキテラボ編集部作成。

都道府県2024年度(円)2025年度目安(円)引上げ額(円)適用開始日(暫定)
北海道10101075+6510月4日
青森9531029+7611月21日
岩手9521031+7912月1日
宮城9731038+6510月4日
秋田9511031+803月31日
山形9551032+7712月23日
福島9551033+781月1日
茨城10051074+6910月12日
栃木10041068+6410月1日
群馬9851063+783月1日
埼玉10781141+6311月1日
千葉10761176+6410月3日
東京11631226+6310月3日
神奈川11621225+6310月4日
新潟9851050+6510月2日
富山9981062+6410月12日
石川9841054+7010月8日
福井9841053+6910月8日
山梨9881052+6412月1日
長野9981061+6310月3日
岐阜10011065+6410月18日
静岡10341097+6311月1日
愛知10771140+6310月18日
三重10231087+6411月21日
滋賀10171080+6310月5日
京都10581122+6411月21日
大阪11141177+6310月16日
兵庫10521116+6410月4日
奈良9861051+6511月16日
和歌山9801045+6511月1日
鳥取9571030+7310月4日
島根9621033+7111月17日
岡山9821047+6512月1日
広島10201085+6511月1日
山口9791043+6410月16日
徳島9801046+6610月1日
香川9701036+6610月18日
愛媛9561033+7712月1日
高知9521023+7112月1日
福岡9921057+6511月16日
佐賀9561030+7411月21日
長崎9531031+7812月1日
熊本9521034+821月1日
大分9541035+811月1日
宮崎9521023+7111月16日
鹿児島9531026+7311月1日
沖縄9521023+7112月1日

よくある質問に回答します!Q&A5選

Q1.手当については、最低賃金から除かれるもの、除かれないものがあるようですが、どのように区分けされるのですか。

A1.最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金です。

ボーナス等1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金は対象外です。

毎月の賃金でも、次のような手当は対象外となります(法第4条、法施行規則第1条等)。

(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金
(3)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

この(3)について、法令では根拠が示されていませんが、厚生労働省のパンフレット等で、明記されています。次のようにお考えになればよいと思います。

精皆勤手当は、出勤状況等働きぶりに応じて支給され、「毎月の基本的な賃金」に該当しません。
通勤手当、家族手当は、通勤の実費補填や扶養の補助といった性格の手当であり、労働の対価としての毎月の基本的な手当に含むのはふさわしくないと考えられます。

(出典)厚生労働省「対象となる賃金は?

Q2.最低賃金はパートやアルバイト等にも適用されるのですか。

A2.これについては「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」で違いがあります。

地域別最低賃金は、労働者のための最低限のセーフティーネットです。

パート、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、各都道府県のすべての労働者・使用者に適用されます。

一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者と使用者に適用されるものです。また、18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満の技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。

一般に最低賃金といえば、地域別最低賃金を指しますので、雇用形態に関わりなく全ての労働者に適用される、と理解しておけば足りるでしょう。

Q3.派遣労働者の最低賃金は、派遣元、派遣先のいずれの最低賃金が適用されるのでしょうか。

A3.派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されます。

例えばB県の最低賃金1015円、C県の最低賃金1020円といった場合、B県の派遣会社(派遣元)からC県の事業場(派遣先)に派遣された派遣労働者には、C県の最低賃金1020円が適用されます。

なお、仮に派遣先事業場の業種が「特定(産業別)最低賃金」賃金の適用対象で基幹的労働者に該当する場合であれば、その最低賃金以上の賃金を払わなければなりません。

Q4.当社は経営状況が非常に苦しいので、経営者と従業員で相談し、一時的に最低賃金未満の賃金で我慢してもらい、景気が回復すれば、さかのぼって支給しようと考えています。倒産して従業員が路頭に迷うよりもましだと思います。そのような対応も許されないのですか。

A4.許されません。

地域別最低賃金は、労働者のための最低限のセーフティーネットです。仮に労使が合意して、最低賃金以下の賃金を定めた場合でも、そのような定めは無効となり、最低賃金額で労働契約が締結されたものと扱われます。使用者は最低賃金に達しない未払いの差額を支払わなければなりません。使用者には労働基準監督署の行政監督のほか、刑事罰さえ科されかねません。

Q5.最低賃金より、低い賃金が認められる場合があるそうですが、どんな場合でしょう。

A5.一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれもあります。

このため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に個別に最低賃金の減額の特例が認められています。

1. 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
2. 試の使用期間中の方
3. 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
4. 軽易な業務に従事する方
5. 断続的労働に従事する方

参考文献

玉上 信明
社会保険労務士
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