2025年「8月の振り返りと9月の準備」

この記事でわかること
- 2025年10月から19歳〜23歳未満の被扶養者の年収要件が150万円未満に引き上げられること。
- 公正取引委員会が公表した事例から、フリーランスとの取引で注意すべき点が具体的にわかること。
- 9月に準備すべきこととして、10月からの最低賃金改定への対応と、年収の壁の変更を周知し従業員の働き控えを防ぐ必要があること。
社会保険労務士の西岡 秀泰です。
9月に入り、暦の上では秋を迎えましたが、まだまだ暑さの厳しい日が続いております。皆さまにおかれましては、日々の業務に加え、法改正や制度変更への対応に追われることも多いのではないでしょうか。
今回は、そうした皆さまの実務に役立つ4つの注目トピックを厳選してご紹介します。業務の合間に、ぜひ一息つきながらお読みいただければ幸いです。
8月の振り返り
【1】19歳以上23歳未満、被扶養者認定の要件変わる
参考ニュース:https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2025/202508/0819.html
2025年10月1日より、健康保険における被扶養者の認定基準が変わります。具体的には、「19歳以上23歳未満の被扶養者」の年間収入要件が、「130万円未満」から「150万円未満」となります。ただし、配偶者は現行通りです。
年間収入要件の変更は、2025年度の所得税制改正で19歳以上23 歳未満の人を扶養する人(大学生の子どもの親など)の所得控除見直しに合わせたものです。特定親族特別控除の新設などにより、所得控除の最高額(63万円)を受けられる19歳以上23 歳未満の年収が「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げられました。
19歳以上23歳未満の被扶養者とは主に大学生の子どもが該当しますが、大学生でなくても上記の年収基準が適用されます。年収要件は昨年の年収で決まるわけではなく、「今後1年間の年収見込」で判断する点に注意しましょう。過去の収入や現時点の収入、将来の収入見込みより判断します。
認定基準の変更により企業担当者は従業員に変更内容を周知するとともに、「事実発生から5日以内」に協会けんぽ(全国健康保険協会)または健康保険組合に「健康保険被扶養者(異動)届」を提出しなければなりません。
届出がないと従業員の家族は余分な保険料を支払うことになるため、漏れがないように配慮しましょう。従業員の大学生の子どもなどで年収が130万円以上あるために健康保険の被扶養者となっていない場合、2025年10月より被扶養者となれる可能性があります。
【2】フリーランス法、3件の勧告事例解説動画
参考ニュース:https://www.rodo.co.jp/news/204250/
2025年8月、公正取引委員会は「フリーランス法(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)」違反に関する3件の勧告事例について、公正取引委員会のYouTubeチャンネルで解説動画を公開しました。
勧告を受けたのは「出版社2社と音楽教室運営会社1社」の計3社です。今回の勧告で違反があったとされるフリーランス法の主な条文は次の通りです。
- 第3条:特定受託事業者(フリーランス)の給付の内容その他の事項の明示等に関する定め
- 第4条:報酬の支払期日等に関する定め
- 第5条:特定業務委託事業者(発注業者)の遵守事項
◆第3条では、発注業者に対し契約条件(発注業務の内容や報酬の額など)を明示することを義務付けています。明示時期は契約条件が決まった直後、明示方法は書面又は電磁的方法(電子メールやPDFなど)と定められています。
勧告を受けた出版社2社では、口頭での発注や報酬額や支払時期を明示しない契約などが多数判明し、同法違反との指摘を受けました。
◆第4条では、報酬の支払期日を「給付を受領した日(フリーランスが成果物を提出したり労務を提供した日)から起算して60日以内」のできる限り短い期間内で定めることを企業に義務付けています。
音楽教室運営会社では支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日支払」と明示して報酬を支払っていましたが、月初に給付を受領したケースでは、報酬支払は受領日から60日を超えていました。また、出版社については支払期日を明確に定めていなかった結果、報酬の支払遅延が発生しています。
◆第5条では、発注業者が遵守すべき事項として一方的な報酬減額などの禁止事項などが定められています。
音楽教室運営会社では、フリーランスに無償で体験レッスンを行わせていました。これは、禁止事項の1つである「フリーランスの利益を不当に害する行為(自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること)」に該当します。
【3】カスハラ対策、社労士が助言する窓口
参考ニュース:https://www.rodo.co.jp/news/204248
佐賀県では、2025年8月にカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策の検討や事前準備をしている企業に対して、電話による無料の相談窓口を設置しました。相談窓口は佐賀県社会保険労務士会に設置され、電話相談以外に企業への専門家派遣も実施します。相談窓口の設置は、2025年6月の労働施策総合推進法改正により、カスハラ防止措置が企業に義務付け(公布日から1年6月以内に施行)られることへの対応です。
佐賀県が2024年7~8月に県内企業を対象に実施した調査(346社)によると、カスハラ対策を行っていない企業の割合は62.4%に上りました。佐賀県では「カスハラストップを目指すプロジェクト」を立ち上げ、企業のカスハラ対策を支援する取り組みが始まりました。
2025年2月には、カスハラに関する企業向けセミナーを県内5会場で開催しました。セミナーの内容は、カスハラの現状やカスハラが会社に与える影響、企業の対策などでした。
企業のカスハラ対策を支援する地方自治体などの取り組みはそれぞれ異なりますが、企業担当者は自社で活用できる取り組みがないか確認し、積極的に参加してみてはどうでしょう。
9月の準備
【4】最低賃金、東京都の最低賃金は10月3日から1,226円に
参考ニュース:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250807/k10014888061000.html
2025年9月3日、東京労働局は東京都の最低賃金(以降、最賃)を1時間当たり1,226円に引き上げることを官報公示しました。引き上げは10月3日から実施されます。前年と比べて63円の引き上げで、引き上げ率は5.42%となります。
63円という金額は、8月4日に厚生労働省の中央最低賃金審議会が答申した引き上げ目安通りですが、現在の方法で最低賃金を決めるようになった2002年度以降で最大です。近年の物価高で実質賃金の前年割れが続く中、物価上昇を上回る賃上げを目指す政府の強い意向が感じられます。
企業においては、勤務地ごとの最賃額と改定時期を確認し、次の対応が必要です。最賃を支払わなかった場合の罰則は、50万円以下の罰金です。
- 最賃以下の従業員の基本給を新しい最賃以上に引き上げる
- パート・アルバイトの時給を新しい最賃以上に引き上げる
- 賃金改定があった場合、労働条件通知書や雇用契約書を更新する
キテラボ編集部より
今回ご紹介した「フリーランス」「カスハラ」「最低賃金」といった話題は、どれも会社のルールブックである就業規則と深く結びついています。これらの事柄は、企業が法令を守り、従業員が安心して働ける環境を整える上で、土台となる大切なポイントと言えるでしょう。とりわけ最近は、働き方に関する法律の変更や、人々の働き方が多様になっていることから、就業規則も定期的に内容を確認し、時代に合わせて新しくしていくことが重要になっています。
つきましては、この機会にぜひ一度、皆様の会社の就業規則が、現在の法律や社内の実情にしっかりと対応できているかをご確認いただき、もし必要な箇所が見つかれば、内容の変更をご検討されてはいかがでしょうか。
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