2025年「5月の振り返りと6月の準備」

特定社会保険労務士の今堀祐介です。
梅雨入りが近づき、雨模様の日も増えてまいりました。
気温や湿度の変化が大きく、体調管理が難しい時期ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
人事労務の現場では、6月は労働保険の年度更新や社会保険の算定基礎届の準備など、年間を通じても特に業務の集中する時期です。加えて、夏季賞与や人事評価など社内の調整ごとも重なり、慌ただしさが増すタイミングかと思います。
そうした中でも、業務のヒントや確認のきっかけとしていただけるように、本記事では人事労務の実務に役立つ4つのトピックをご紹介しています。
業務の合間に、ぜひお役立ていただければ幸いです。
5月の振り返り
【1】「19歳以上23歳未満の健康保険被扶養者要件」が検討中
参考ニュース:https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495250041&Mode=0
2025年10月から、19歳から23歳(学生層)の健康保険の扶養認定にあたって基準とする収入額(以下、「扶養認定基準額」といいます。)を、年間130万円から年間150万円に引き上げることが検討されています。
130万円の設定をされた昭和52年の翌年の最低賃金の全国加重平均額は時給315円であり、現在(令和7年6月現在)の全国加重平均(時給1055円)の1/3以下であったことを考えると当然の措置だと言えます。
しかし、その引き上げ額は年額20万円であり、月額にすると15,000円程度の増額でしかありません。仮に時給が全国加重平均と同じ時給1055円だった場合、8時間勤務であればシフトを二日増やすこともできない程度の引き上げという点には注意が必要です。
また、19歳から23歳という点にも注意が必要です。仮に、現在23歳の労働者について年間150万円ベースで勤務に入ってもらっていたとしても、24歳になったら基準額が年間130万円に引き下げられます。したがって、シフト制の労働者の勤怠管理をするにあたって、年齢も踏まえることが求められます。
皆さんも「そうそう!」と共感してくれると思いますが、年末になると、103万の壁や130万円の壁の調整のために勤務日数を減らして欲しい、という要望を受けることが多々あります。使用者は労働力の確保に苦心しており、限られた人員でやりくりするためには勤務日数が多くなってしまうのも仕方ありません。
ただ、いくら労働力の確保に困ったとしても、法令遵守の精神は重要です。12月は賃金を支給せず、年が明けたらまとめて支払う、というような対応を見たこともありますが、これは税や社会保険に関する法に反するだけでなく、労働基準法にも反することになります。
労働基準法上、賃金は毎月1回以上、定期に支払わなければなりません。つまり、10月の段階で通算支給額が100万円に達しているからといって、11月と12月に働いた分の賃金を年が明けた1月に支給すると、労働基準法違反にもなってしまいます。このような対応は絶対に避けてください。
【2】労働時間法制の課題とは
参考ニュース:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57740.html
第197回労働政策審議会労働条件分科会で、労働環境における様々な課題が提示されました。その中で、個人的に着目したデータをご紹介したいと思います。
私が気になったデータは、「自己啓発についての課題意識」と「睡眠時間の状況」についての労働者へのアンケートの結果です。
「自己啓発についての課題意識」については、実に男性の60%以上が正社員か否かを問わず、「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」と回答しています。また、約7割の労働者が理想的な睡眠時間数を確保できていないことも示されています。
ここから分かるのは、「日本人は、とにかく時間が足りていない」ということです。これは由々しき事態だと思っています。
まず、自己研鑽の時間を作れないというのは、能力の向上をする機会がないということです。生産性の向上にはスキルアップは欠かせませんが、多くの方は、時間がないことを理由に自己研鑽を積むことができていません。これでは、日本全体での生産性が下がってしまうことになり経済の停滞を引き起こします。また、睡眠時間が足りていないというのも恐ろしい事実です。睡眠は心身の回復に欠かせない要素であり、睡眠不足は注意力の欠如から業務上か否かを問わず事故を引き起こす可能性も高めます。また、メンタルヘルス不調を引き起こす大きな原因とも言われている点も看過できません。
【3】5月病、5月を過ぎたらもう安心?
参考ニュース:https://www.manegy.com/news/detail/11932/
新年度を迎え新しい職場や所属に配属されたものの、その環境に適応できず心身の不調を訴える方は非常に多い。これは、五月病という言葉で片づけてしまうのは早計です。
本稿ではメンタルヘルス不調の兆候を紹介しますので、該当するものがあれば、一度面談をするなど適切な労務管理の一助にしていただければと思います。
1:服装や就業環境の乱れ
特にうつ状態に陥っている方は、服装や就業環境の乱れに無頓着になる傾向があります。寝癖を直さずに出社している、何日も同じ服を着ている、デスク周りが整理されていなかったりゴミが散乱している等の変化が見られた場合には、メンタルヘルスを損ねている可能性があります。
2:勤怠不良
寝つきが悪くなるなど、睡眠の質が落ちる傾向にあるため、朝に起きることが出来なくなるようなケースが多いです。遅刻や欠勤、当日の年休申請等が頻発しているという場合だけでなく、いつも始業にゆとりをもって出社していた方が始業時刻ギリギリに出社するようになった場合にも注意が必要です。また、日中に居眠りをする場合もありますが、これも睡眠の質の低下に起因している場合があるので注意が必要です。
3:作業ミス
集中力の低下も顕著な症状です。いつもできている作業であるにも関わらず、ミスが頻発する等の場合には注意が必要です。また、メール等のやりとりで、送った内容と噛み合わない回答が来ているときも、集中力の低下により文章を見落としているという可能性もあります。
4:攻撃的な態度
メンタルヘルス不調の症状の一つに、攻撃的になるというものがあります。精神的な疲労により、怒りの感情をコントロールすることができなくなり、上司や同僚、場合によっては取引先に対しても攻撃的な態度をとる場合があります。
5:挨拶をしない等覇気がない
覇気がなくなるのは、メンタルヘルス不調、特に、うつ状態の方の典型的な症状です。出社した際に覇気がなかったり、挨拶をしても返事がなかったり、話しかけても気づかないという状態にも注意が必要です。
6:高級品を身に付け始める
覇気がなくなるのとは反対に、躁状態に陥っている方は、散財をするなどの傾向にあります。突然普段とは異なる高級品を身に付けだしたという場合には、趣味が変わったということもあり得ますが、注意は必要です。
7:社交的になる
躁状態の特徴の一つに、過剰な会話があります。また、話す内容も根拠もなく自信にあふれた発言であったり、普段話しかけない相手にも積極的に話しかけたり、という特徴もあります。普段とは異なる話し方等をする場合には注意が必要です。
※下記の資料では、メンタルヘルス対策の重要性、企業がとるべく3ステップと具体的なアクション内容をまとめています。

メンタルヘルスマニュアル休職~復職まで企業がとるべき3ステップ
この資料でわかること メンタルヘルス対策の基礎知識 メンタルヘルス対策の重要性 企業がとるべき3ステップ メンタルヘルス不調による休業者は年々増加傾向となっております。また本人だけの問題でな
6月の準備
【4】6月から熱中症対策義務化
参考ニュース:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250518/k10014808981000.html
令和7年6月から、労働安全衛生規則が改正され、熱中症対策を行うことが義務化されました。
WBGT基準値(諸熱環境による熱ストレスを示す指標)が28度以上または気温31度以上の環境下において、連続して1時間以上または1日4時間を超えて作業を行わせる事業場においては、使用者に次の二つの義務が課せられます。
①事業者が熱中症による健康障害を防止するために講ずるべき体制整備と関係作業者への周知をする義務
②事業者が熱中症による健康障害を防止するために講ずるべき措置の実施手順の作成と関係作業者への周知をする義務
少し具体的に案内をすると、次のような体制構築とその周知が求められます。
・熱中症の自覚症状がある場合に申告をすることができる体制の構築及び熱中症の症状が出ている者を発見しやすくするための体制の構築 ・熱中症の労働者に対して、速やかに作業離脱、身体冷却、水分補給等の一時的な処置を指示できる体制の構築 ・熱中症の労働者を迅速に医療機関に搬送できるよう、緊急搬送先の情報を共有できる体制の構築 |
これらの義務を怠った場合には、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
最近の事例を紹介すると、造園業に従事する労働者が真夏の炎天下(39℃)で業務に従事している際に熱中症を発症し死亡したという事案(大阪高等裁判所 平成28年1月21日)では、使用者に対して慰謝料も含めて3,600万円(労災保険法上の給付を差し引いたうえでの支払額)もの支払を命じました。
このようなリスクを回避するためにも、適切な体制を構築しなければなりません。熱中症になった従業員自身が申告をすることができれば最悪の事態は避けられる可能性も高いですが、突然意識を失った場合などは、対処が遅れ、命にかかわることもあります。そのような事態を避けるための対策としては、例えば次のような方法があります。
・巡視の頻度を増やす ・バディ制を採用し、単独での作業をさせない ・ウェアラブルデバイスによる体調管理をする ・業務時間中に定期連絡をさせる |
なお、上記は熱中症になった労働者への対応についての対策ですが、熱中症の発症事態の対策も重要です。「水分補給をしておけば大丈夫」と考える方が意外と多いですが、これは正しくはありません。炎天下で作業をし続ければ、水分補給だけでは体温の上昇をとめることはできません。水分補給はたしかに重要な対策ではありますが、これだけで熱中症を避けられるわけではない事を理解することが重要です。
キテラボ編集部より
今回ご紹介した「働き方」「メンタルヘルス」「熱中症対策義務化」といった話題は、どれも会社のルールブックである就業規則と深く結びついています。これらの事柄は、企業が法令を守り、従業員が安心して働ける環境を整える上で、土台となる大切なポイントと言えるでしょう。とりわけ最近は、働き方に関する法律の変更や、人々の働き方が多様になっていることから、就業規則も定期的に内容を確認し、時代に合わせて新しくしていくことが重要になっています。
つきましては、この機会にぜひ一度、皆様の会社の就業規則が、現在の法律や社内の実情にしっかりと対応できているかをご確認いただき、もし必要な箇所が見つかれば、内容の変更をご検討されてはいかがでしょうか。
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