TOP労務コラム解雇予告除外認定とは 〜申請時の必要書類と3つの注意点〜

解雇予告除外認定とは 〜申請時の必要書類と3つの注意点〜

KiteLab 編集部
2022.02.07

労働者を解雇する場合には30日前に予告をするか、即時解雇を行う場合には平均賃金の30日分以上の手当(予告手当)の支払いが必要です。これは、解雇される労働者の生活を安定させるために設けられた規制であり、使用者は必ず守らなければならないものです。

しかし、労働者に重大な帰責事由がある場合にまで使用者にこの規制を課すのは酷なため、所轄労働基準監督署長の認定を受ければ、予告手当を支払うことなく即時解雇が可能です。そのためには、「解雇予告除外認定申請書」を所轄労働基準監督署長へ申請したうえ、認定決定を受けることが必要です。

今回は解雇予告除外認定の制度、必要な書類、注意点について解説します。

1 解雇の予告の原則と例外

使用者は労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予をするか30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労基法第20条第1項前段)。ただし、労働者に重大な帰責事由がある場合において、所轄労働基準監督署長の認定を受けていればこの限りではありません(同項但し書き)。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

(解雇制限)
第十九条 
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

2 解雇予告除外認定の基準

2.1 解雇予告除外認定の基準とは

 解雇予告除外認定の基準は通達*によって決められています。この通達を要約したものは下記のとおりです。

①事業場内等において刑法犯に該当する行為を行った場合
②賭博等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
③経歴詐称をした場合
④他の事業場へ転職した場合
⑤原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出退勤の督促に応じない場合
⑥出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意をうけても改めない場合

*昭和23年11月11日基発1637号 昭和31年3月1日基発11号

通達では上記のように認定基準となる事例を複数列挙しているものの、同通達では、「認定にあたっては必ずしも上記の事例に拘泥することなく総合的に判断すること。」とされています。

2.2 刑法犯に該当する行為とは

2.1で挙げた「業場内等において刑法犯に該当する行為を行った場合」とは横領行為や背任行為等をさし、具体的な事案として以下のことが挙げられます。

【金銭の横領等】
・インターネット通信業のA事業場に勤務をする労働者Bは経理を担当するものである。通常、経理担当の処理は都度、システムにより監視され、上長にデータ上で経理記録の決裁等をとっていたものの、システムエラーによって、新規取引先であるC社のデータの一部が決済システム等と連携していなかった。
BはC社の担当であり、システムエラーに気づいていたものの、そのことを上長への報告をせず、システムによる監視をすり抜けるよう帳簿の一部を偽装工作をしていたが、定期的な内部監査によってBの不正行為が発覚したも。Bが横領した金銭は少なくとも100万円に及んだ。

【背任行為】【横領行為】
・飲食店用の食器等を製造・販売するD事業場に勤務をする労働者Eは、商品の在庫管理等の責任者であるが、労働者Eはその立場を利用して自らの判断でD事業場の食器等の一部を、Eの親戚及び知人が経営する飲食店等へ格安の値段で引き渡したり、オークションサイトで販売する等してその金銭を着服していた。
Eは、顧客へは本来100枚(200,000円相当)の食器を引き渡したにもかわらず、社内の伝票の控に「食器を110枚を引き渡した」「値引き処理を行ったため請求額は200,000円である」等の偽装工作を行うことで、D事業場の食器10枚を第三者に提供する等の行為を繰り返していた。
Eはギャンブルにつぎ込むための資金を得るため、横流しの行為を続けていたが、Eの一連の挙動に不信を抱いた上長Fが独自に調べたところ、Eが4月間の間に130万円相当の商品を横流ししていることが発覚した。

・運転の職務に就く労働者が、酒気帯び運転を行い、物損事故を生じさせた。同労働者は、乗車前に行われる呼気測定後に車内で飲酒をしていていた。

上記のように事業場内において「軽微なもの」とは言えない程度の刑法犯に該当する行為が認定基準に該当します。ただし1回の事案が「軽微なもの」であっても、事業場が不祥事防止のための諸種の対策を行っていたにもかからず、継続的又は断続的に、盗取・横領等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合は、「労働者の責めに帰すべき事由」に該当する可能性があります。具体的な事案として以下のことが挙げられます。

・飲食店のホールを担当する労働者Gが、9月某日に10円硬貨3枚、10月某日に100円硬貨1枚窃取したことが発覚した。11月某日に労働者Gと話し合った結果、本人が深く反省をしているため、反省文を提出し二度と繰り返さないことを誓約することを条件に、同種の業務に引き続き従事させた。ただし、当該労働者にはレジ業務は担当させず、全労働者に当該事件の経緯やレジ操作を行わせないことについて周知をしていた。

ホール責任者は労働者Gがレジ操作をしていないかを常に監視するとともに、自身が不在にしている期間については、防犯カメラでGの挙動を確認をする等の対策をとっていた。

また、レジ操作をするためには、名札に付されたバーコードを読み取ることで操作ができるようにレジのシステムを変更した。加えて、労働者Gの名札に付されたバーコードではレジ操作ができないよう制限をかけ、名札の管理等も行っていた。

しかしながら、レジ上にある防犯カメラが偶々故障していた12月10日から12日までにおいて、責任者が不在にしている時間帯に、労働者Gは、新人の同僚Hを巧に騙すことによってHの名札取得し、Hの名札に付されたバーコードを利用してレジ操作を行った。

労働者Gはスリルを味わいたい等の理由から、12月10日に5円硬貨1枚、111日に10円硬貨2枚、12日に1円硬貨3枚を窃取した。他の同僚が、労働者がレジ操作を行っていたことをホール責任者に報告をしたことをきっかけに事態が発覚した。

2.3 事業場外での行為

認定基準においては原則的に事業場内における刑法犯等に該当する行為を対象としていますが、下記のような場合には、事業場外で当該行為が行われたとしても認定基準の対象となり得ます。

・バス会社において、バス運転業務に従事する労働者が、事業場外において泥酔状態で運転をし、人身事故を起こした。

・銀行に勤務をする労働者が、事業場外において、欺罔行為によって知人数名から計1,000万円を騙し取った。当該被害者が警察に被害届を提出し、労働者は逮捕されており、当該事件は各種報道機関によって報道された。この報道では当該労働者が行った行為、勤務先、氏名等も報道されている。

上記のように事業場外で行われた刑法犯等の行為であっても、それが当該事業場の社会的信用を失墜させるものであれば、認定基準の対象となり得ます。

3 解雇予告除外認定に必要な書類

解雇予告除外認定に必要な書類は以下のものです。書類はできる限りそろえたほうが望ましいですが、一部を除いて必ずしも必要なものではありません。

① 解雇予告除外認定申請書 ( https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/

添付書類
② 顛末書(てんまつしょ)
③ 労働者名簿の写し
④ 就業規則(解雇事由該当箇所)の写し
⑤ 自認書等の写し
⑥ その他労働者に帰責性があることが確認できる書類の写し

① 解雇予告除外認定申請書
この申請書(様式第3号)には事業場名・解雇をしようとする労働者の雇入れ年月日・氏名・使用者の職氏名等を記載します。解雇予告除外認定申請をする際の頭紙となるもので必ず必要です。

② 顛末書
労働者が不祥事を起こした際に、その経過を会社がまとめた資料です。この顛末書をもとに労働者に聴取を行ったり、労働者に帰責性があるか否かの判断を行うための重要な書類です。なお、経過を可能な限り詳細かつ具体的に記載されていればよく、題目は「経過書」「報告書」等でもかまいません。

③ 労働者名簿の写し
解雇しようとする労働者が当該事業場の労働者であるか否かの確認をするための資料です。労働者名簿若しくはその代替となる書類に労働者の氏名・住所・連絡先等が記載されていることが望ましいです。

④ 就業規則(解雇該当事由)
就業規則には解雇事由が規定されていることが一般的ですが、どの規定に該当するかを示した、該当箇所の写しを添付書類として提出することが望ましいです。

⑤ 自認書
事業場が作成した②顛末書の内容や経過等が概ね間違っていないと認めている場合は、労働者本人より「自認書」作成させ、申請時に提出するのことが望ましいです。また、過去に同種の行為を行った場合に反省文等を書かせている場合には、当該反省文等の写しを必要に応じて提出することも可能です。

⑥ その他の資料
顛末書だけでなく、労働者の窃取等の不祥事を撮影した防犯ビデオのスクリーンショット、労働者が起こした不祥事が報道されている場合はその記事の写し等を提出することが可能です。

4 認定申請後の流れ

4.1 労働者への聴取

4.1-1 原則

解雇予告除外認定の申請が受理された後、監督署による調査が始まります。監督署の調査は添付された書類の確認のほか、労働者への聴取が行われます。聴取は原則として対面で行われ、監督官が録取した内容をまとめた「録取書」が作成されます。

録取書は当該労働者に読み聞かせ、間違いが無ければ、録取書の末尾に署名がなされます。

ただし、労働者が架電による聴取を希望した場合は架電によって録取書を作成する場合もあります。

この聴取においては、顛末書等をもとに労働者に当該事実の確認を行います。労働者が事実を否認している場合には、その旨が録取書に記載されます。

4.1-2 労働者が消息不明の場合

労働者が消息不明の場合であっても労働者への接触を試みる場合もあります。労働者の住所へ「来署依頼通知書」を送付し、その通知書に「期日に来署がない場合、又は応答がない場合は、事業場の申立て内容に異議がないものとみなします。」といった内容を添付して送付することもあり得ます。

ただし、事案によっては「労働者と接触できないため処理が不能」と判断され不認定決定となる場合もあり得ます。

これらの調査の手法は監督署が組織的に決定するもので、申請者が決定するものではありません。

4.1-3 労働者が拘留されている場合

労働者が事業場内等で起こした不祥事によって、拘留されている場合は、監督官が拘留されている留置所に赴いて労働者と面談をし、労働者に聴取を行うことがあります。

4.2 決定

事業場から提出された資料及び労働者の申立てを相互考慮したうえで、解雇予告除外認定の認定基準に該当するか否かを判断します。

解雇予告除外認定申請が認定された場合は認定書が交付されます。認定書は申請書及びその添付書類とともにホッチキス止めされ、各書類に割印をしたうえ交付されます。

不認定の場合は不認定書が同様に交付されます。

5 3つの注意点

5.1 必ず認定されるとは限らない

解雇予告除外認定が申請された場合、監督署に勤務をする労働基準監督官が調査を行います。労働基準監督官は中立的な立場で、認定基準に適合するか否かの調査を行うのであって、会社の代理人となって調査をするわけではありません。

また認定基準に該当するか否かは監督署が客観的に判断をします。そのため、会社が、該当すると思料していても監督署が認定基準に該当しないと判断することは十分にあり得ます。

5.2 「不利益処分」に該当しない

解雇予告除外認定申請に対しては、認定又は不認定の決定が下されますが、これらの行為は「確認」にあたるもので、不認定の決定となった場合であっても行政手続法上の不利益処分には該当しません。*

そのため、不認定の決定を受けた場合においても、監督署に不認定となった理由を書面で交付を求める法的な根拠はありません。

また不利益処分に該当しないことから、審査請求の対処ともなりません。

*行政手続法第14条
(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。

不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。

5.3 認定決定と労働契約法とは関係がない

解雇予告除外認定申請に対する認定決定は、労基法第19条及び第20条に基づいて行う事実確認です。認定決定は、労働者を予告手当を支払わずに即時解雇するための手続の一部にすぎず、労働契約法に規定された「解雇理由の正当性」を担保する目的で行われるものではありません。また、労働者が起こした不祥事が就業規則に規定された懲戒解雇事由に該当するか、懲戒解雇事由が適正なものであるかを確認をする目的で行うものでもありません。

そのため、認定決定を受けた後の予告手当を支払わない即時解雇は「手続き面」として適正なものですが、解雇の「正当性」は保障されていないため、誤解のないよう注意が必要です。

(解雇)第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

まとめ

この記事では解雇予告除外認定の制度、必要な書類、申請後の流れについて事例を交え解説しました。重大な帰責事由がある場合のみ認定されるものであり、注意点にあるように必ず認定されるとは限りません。申請にあたって制度をきちんと理解する必要があるでしょう。

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