2025年「7月の振り返りと8月の準備」

この記事でわかること
- 全国で初めて、悪質な「カスハラ」を行った者の氏名を公表する条例が三重県桑名市で施行され、実際に認定事案が出たこと
- スポットワークのルールが変更され、労働契約が「応募時」に成立するようになり、事業者には通勤災害の適用や休業手当の支払い義務が生じること
- 改正育児・介護休業法への対応として、テレワーク導入が進む一方、「40歳を迎える従業員への情報提供」といった新たな義務への対応が企業の課題となっていること
社会保険労務士の松本 幸一です。
連日厳しい暑さが続いておりますが、人事・労務担当の皆さまにおかれましては、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届、さらには高年齢者・障害者雇用状況報告など、多岐にわたる手続き業務に追われた6〜7月を無事に乗り切られたことと存じます。本当にお疲れさまでした。
8月は比較的落ち着いた時期とされる一方で、秋以降の法改正対応や来年度に向けた準備に目を向け始める時期でもあります。
今回は、そうした皆さまの実務に役立つ4つの注目トピックを厳選してご紹介します。業務の合間に、ぜひ一息つきながらお読みいただければ幸いです。
7月の振り返り
【1】全国初の「カスハラ」氏名公表条例に基づきカスハラ認定、三重県桑名市
参考ニュース:https://www3.nhk.or.jp/lnews/tsu/20250630/3070015576.html
三重県桑名市では本年4月1日より、カスハラ対策について、カスハラに該当する行為を行った者の氏名を公表する形での制裁措置を盛り込んだ条例を施行し、市役所には専用の相談窓口が設けられました
桑名市では弁護士や大学教授などで組織されるカスハラ対策委員会を設け、相談者からの事案の聴取や専門家からの質問を非公開で審議することとなっています。当然ながら、カスハラを行ったとされる側からの意見も聴いたうえで十分に審議を行い、カスハラに該当するとなった事案について市長に上申します。
上申を受けた市長が最終判断を下すこととなりますが、カスハラと認定した場合は事案の概要を公表することに加え、加害者側に今後同様の行為を行わないように警告します。その後警告に応じず改善が見られない場合には氏名が公表されます。
氏名公表を盛り込んだ条例は全国で初の例となり、その後の動きに注目が集まっていたところ、早速初のカスハラ認定事案が発生しました。事案の概要は、運送業者が依頼主の荷物を破損したことについて、「ばか野郎」「土下座する姿を撮影するぞ」といった言動と併せて依頼主宅での謝罪、破損した商品の再購入への同行、土下座を要求したということです。
今回の事案について、委員会では確認できた事実に基づき審議を重ね、加害者側からの要求が社会通念上不当との見解に達し、カスハラに該当する事案である旨を市長に上申しました。その後、上申を受けた市長がカスハラに該当すると認定しました。氏名の公表については、市からの警告書への対応次第で、初の氏名公表事案となるか、引き続き目が離せません。

体制とツールで社員を守る!カスハラについて会社が取るべき対応とは
こちらは2024年11月26日に実施したセミナーの動画となります。多くの参加者の皆様からご好評を頂きましたため、録画動画を公開することとなりました。 セミナー概要 近年、カスタマーハラスメント(カスハ
【2】スポットワーク、労働契約の成立タイミングについて
参考ニュース:https://corp.timee.co.jp/news/detail-4758
ここ数年注目を集めているすき間労働、いわゆるスポットワークについても新たな動きが見られました。一時的な人手不足に悩む事業主と、すき間時間に単発で働きたい労働者双方の希望を実現する労働市場のインフラとして、その存在感は非常に大きくなっています。
この度、スポットワーク特有の契約成立のタイミングに厚生労働省がメスを入れる形でスポットワークの労務管理整備に向けたリーフレットが発行され、事業者側の対応が求められています。
これを受けてスポットワークの仲介事業大手の株式会社タイミーでは、これまで労働契約成立のタイミングを現地到着後のログイン時点としていましたが、求人への応募の段階で労働契約が成立する方針へ変更することを表明しています。労働契約のタイミングが早まることで大きく変わるのが次の2点です。
・就業地へ向かう際の通勤災害が適用される
・事業主都合でのキャンセルや予定より短時間での終了に休業手当の支払い義務が生じる
スポットワークを利用している事業主は特に今後のスポットワークの体制整備について注意が必要です。
スキマバイトを企業が導入する際の注意点!労働条件の明示や就業規則の周知方法について
株式会社KiteRaが2024年に実施した【スキマバイトに関する実態調査】のデータを交えつつ、社労士がスポットワーカーへの就業規則の周知や労働条件の明示ルールなどの注意点を解説しています。
【3】「改正育児・介護休業法への企業対応状況」に関するアンケート調査の結果発表
参考ニュース:https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000089328.pdf
本年、2025年4月1日より段階的に施行されている改正育児・介護休業法への対応アンケートが公表されました。他の企業がどのように対応しているのか、気になる部分だと思います。私が注目したアンケート項目は2つありました。
①テレワークの実施・導入状況について
・既存のテレワーク制度で対応が最も多く6割弱
・3割強の企業ではテレワークの導入予定はないと回答
コロナ禍を期に多くの企業でテレワークの導入が進んだことにより、スムーズな改正法対応ができている点は予想通りです。
②介護労働者となりうる者への情報提供について
・まもなく40歳を迎える労働者に、年1回事前にまとめて実施
こちらは今回新たに盛り込まれた内容であるため、多くの企業において手探りながら進めていることだと受け取りました。今後、試行錯誤を経た成功事例が普及していくことを期待しています。

2025年施行 育児介護休業法改正
この資料でわかること 2025年4月1日施行の改正内容 2025年10月1日施行の改正内容 雇用保険法の改正内容 企業の対応が必要なこと 出生後休業支援給付金の紹介 など 2025年の育児・介
8月の準備
【4】2026年の障害者の法定雇用率引上げに向けて
参考ニュース:https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf
本年の障害者の法定雇用率は昨年から引き続き「2.5%」でしたので、障害者雇用状況報告書の作成においては、前年から引き続き担当されている方であれば特に問題なく提出できたのではないでしょうか。
6月から7月にかけては労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届に加えて、高年齢者雇用状況等報告・障害者雇用状況報告(通称ロクイチ報告)が重なり、人事労務担当者にとって大きなヤマとなることが通例で、無事8月を迎えられた人事労務担当者の皆様、本当にお疲れ様です。
そのうえで、今回取り上げるトピックですが、これらのうち障害者雇用状況報告に関連して来年2026年から障害者雇用率が「2.75%」へ引き上げられます。
障害者雇用率2.5%である現状においては常用労働者換算で40名以上雇用する企業において障害者の雇用・報告義務が生じますが、2.75%となると同37.5人以上雇用する企業が対象となります。長年人事労務を担当されている方であれば、遂に40人を切ってきたかと思われることでしょう。
常用労働者換算で40人弱の企業では、引き上げの直前で慌てないよう、今のうちから障害者雇用に向けた準備を進めていきましょう。
キテラボ編集部より
今回ご紹介した「カスハラ」「スポットワーク」「改正育児・介護休業法への対応」といった話題は、どれも会社のルールブックである就業規則と深く結びついています。これらの事柄は、企業が法令を守り、従業員が安心して働ける環境を整える上で、土台となる大切なポイントと言えるでしょう。とりわけ最近は、働き方に関する法律の変更や、人々の働き方が多様になっていることから、就業規則も定期的に内容を確認し、時代に合わせて新しくしていくことが重要になっています。
つきましては、この機会にぜひ一度、皆様の会社の就業規則が、現在の法律や社内の実情にしっかりと対応できているかをご確認いただき、もし必要な箇所が見つかれば、内容の変更をご検討されてはいかがでしょうか。
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