年次有給休暇について関係通達や判例を交えて解説
年次有給休暇(以下「年休」という。)は、勤務後6か月後およびその後1年後ごとに、休日の他に労働者に一定日数の休暇を与え、使用者の負担でその休暇中の賃金を保障する労基法(以下「法」という。)に定められた制度です。
一定期間働くと疲労が蓄積します。そこで、一定日数の休暇を与えることで、労働者の心身の疲労を回復させ、さらにはゆとりのある生活の実現に資することを目的とするものです。この年休の制度の内容について、見ていきます。
(1)年休の発生要件
年休の発生要件は、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したことです。
法第39条第1項
「継続勤務」とは、労働契約が存続している期間をいい、勤務の実態に即して実質的に判断されることになり、次の場合には「継続勤務」と整理することができます。
昭63.3.14基発第150号、平12.12.27厚生労働省告示第127号
- 定年退職者を引き続き嘱託等として継続雇用したとき
- 合併により労働者を新会社に移籍させたとき
- 在籍出向者を出向先で受け入れたとき
- 休職とされていた労働者が復職したとき
- 臨時工、パート等を正規社員に切り替えたとき
- 会社を解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係を新会社に包括継承させたとき
- 会社分割により承継会社等に労働契約が承継されたとき
「全労働日の8割以上出勤」は、労働者の責めによる欠勤が特に高い者を年休の対象から除外する趣旨で定められたものです。
〔八千代交通事件〕最一小判平25.6.6
出勤率を算定するうえで分母となる「全労働日」とは、労働者が労働契約上の労働義務を負う日数をいいます。
〔エス・ウント・エー事件〕最三小判平4.2.18
具体的には、就業規則等で労働日と定められた日のことで、1年度の総暦日数から休日を除いた日数が該当します。 また、次の日は全労働日からは除外します。
平25.7.10基発0710第3号、平21.5.29基発0529001号
- 不可抗力による休業日
- 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
- 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
- 代替休暇を取得した日
出勤率を算定するうえで分子となる「出勤」とは、労働義務のある日に労働をした日数をいいます。労働日は1日単位でみる必要があるので、遅刻や早退があった場合でも、欠勤として扱うことはできません。 また、次の日は出勤に含める必要があります。
法第39条第10項、昭22.9.13基発第17号、平6.3.31基発第181号、平25.7.10 基発0710第3号、〔八千代交通事件〕最一小判平成25.6.6
- 業務上負傷・疾病による休業期間
- 育児・介護休業期間
- 産前産後休業期間
- 年休取得日
- 労働者の責に帰すべき事由とはいえない不就労日
(2)付与日数
年休の発生要件を満たした労働者は、勤続6か月後に10労働日の年休を取得する権利が発生します。
さらに、勤続1年6か月で11日、2年6か月で12日と増えていきますが、2年6か月を超えた後には、1年ごとに2日ずつ加算した日数となり、勤続6年6か月以降は上限の20日となります。
法第39条第1項、第2項
1週間の所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下の労働者等については、所定労働日数に比例した年休が付与されることになります。
法第39条第3項、規則第24条の3
(3)取得単位
年休は「1日単位」で取得するのが原則ですが、その例外として、「半日単位」と「時間単位」があります。
「半日単位」は、労使の合意がある場合に利用することが可能で、労働者が取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の「1日単位」による年休取得の阻害にならない範囲内で運用される場合において認められます。
平7.7.27基監発第33号
「時間単位」は、労使協定を締結し、必要な事項を定めた場合には、年に5日を限度として取得することが可能です。
法第39条第4項、規則第24条の4
なお、前年度からの繰越しがある場合であっても、その繰越分も含めて5日が限度となります。
(4)利用目的
労働者が年休をどのように利用するかは、労働者の自由であると解されていますので、労働者に利用目的の申告を義務付けることはできません。
〔白石営林署事件〕最二小判昭48.3.2
ただし、使用者が時季変更権の行使を差し控える判断をする場合には、労働者に利用目的を確認することは許されると考えられています。
〔此花電報電話局事件〕最一小判昭57.3.18
これは、事業の正常な運営が妨げられる場合に、年休を取得する必要性の程度を考慮して、使用者が時季変更権の行使を控えることは望ましいと考えられるからです。
(5)時季指定権
労働者がいつ年休を取得するのか、具体的に指定して請求する権利を「時季指定権」といいます。請求にあたり、使用者の承諾は必要ありません。
この時季指定によって、労働日の労働義務が消滅します。労働日は、原則として暦日計算によりますので、通常の日勤者の勤務が時間外労働によって翌日の午前2時まで及んだ場合は、翌日の勤務分として年休を与えたしたとしても、1労働日の年休が与えられたことにはなりません。
また、1勤務16時間隔日勤務や1勤務24時間の一昼夜交替制勤務で1勤務が2暦日にわたる場合であっても、暦日原則が適用されます。
昭26.9.26基収3964号、昭63.3.14基発150号
実務では、遅刻・欠勤した場合において、事後に年休として振替処理をするケースがあります。年休は「事前」に労働義務を消滅させるものですので、この事後の振替えは、就業規則等で使用者が認めている場合、または個別に使用者が認めた場合に限り可能となります。
〔東京貯金事務センター事件〕東京高判平6.3.24
労働者の時季指定にしたがって使用者が年休を取得させたときは、その時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした「年次有給休暇管理簿」を作成し、保管します。
法規則第24条の7
(6)時季変更権
使用者は、請求された日に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に変更して与えることが出来ます。
法第39条第5項
これを「時季変更権」といいます。
この場合、使用者は他の日に年休を指定する義務はなく、承認しない旨の意思表示で足ります。
〔jr東日本事件〕東京高判平12.8.31,〔此花電報電話局事件〕最一小判昭57.3.18
「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、事業の内容・性質、当該労働者の作業内容、業務の繁閑、代替者の配置の難易度等の諸般の事情を考慮して判断します。
一般的には、繁忙期、代替困難な業務、長期休暇の請求、多数の労働者から請求の場合において、時季変更権の行使が問題となり得ます。
もっとも、年休はできるだけ労働者が指定した時季に取れるよう配慮をすることを要請していますので、恒常的な人員不足を理由として、代替要員の確保を放置したまま時季変更権の行使をすることは違法になり得るでしょう。
〔弘前電報電話局事件〕最二小判昭62.7.10
(7)計画的付与
年休の日数のうち、5日を超える部分については、労使協定で定めることにより、年休を取得させることができます。
法第39条第6項
5日を超える部分が対象なのは、労働者の病気その他の個人的事由による取得のために、一定の日数を確保しておく必要があるからです。
なお、計画的付与として、時間単位年休を取得させることはできません。
平21.5.29基発0529001号
付与方式には、
- 一斉付与方式
- 判別交替付与方式
- 年休付与計画表による個人別付与方式
などがあります。
(8)時季指定義務(取得義務)
働き方改革関連法の施行により、平成31年4月から使用者には、労働者ごとに年休を付与した日(基準日)から1年以内に5日間、時季を指定して取得させる義務付けがされています。
法第39条第7項
時季指定にあたって、使用者は労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努める必要があります。
法規則第24条の6
対象となるのは、当年度に付与された法定の年休付与日数が10日以上の労働者で、繰り越し分の年休を合算して10日以上になる場合には、対象とはなりません。
平30.12.28基発1228第15号
労働者による時季指定または計画年休により既に年5日間以上取得済みの労働者に対しては、時季指定は不要です。
法第39条第8項
なお、この「5日間」の中には「半日単位」年休を含めることはできますが、「時間単位」年休を含めることはできません。
(9)支払うべき賃金
年休を取得した場合に支払うべき賃金として、①平均賃金、②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、③健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する金額、があります。
法第39条第9項
その都度使用者の選択を認めるものではないため、いずれを選択するかは、①、②の賃金を原則として,就業規則に定めておく必要があります。③の賃金を選択する場合は労使協定が必要となります。
昭27.9.20基発675号、平11.3.31基発168号
実務的には、通常の勤務日と同様の処理をする②のケースが大半でしょう。
(10)年休の繰り越し、消滅
当該年度に行使されなかった年休は、翌年度に限り繰り越されます。
昭22.12.15基発第501号、法115条
また、繰越分の年休と当該年度に付与された年休がある場合、繰越分から時季指定がされたと推定すべきと解されています。 年休の消滅に関連して、年休の買い上げが問題となる場面があります。
「事前」に年休を放棄する旨の契約や買い上げの予約は、法の趣旨に反することになります。
〔日本シェーリング事件〕最判平元.12.14、昭和30年11月30日基収4718号
一方で、退職時における買い上げについては、未消化年休の清算を認めた事例(〔住之江a病院事件〕大阪地判平20.3.6)があります。